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悪夢

作者: 桜瀬

企画参加用でしたが、締切と字数不足でした(´;ω;`)

 月も星もない夜道をひとり歩いている。

 どこへ向かっているのかも、どうして歩いているのかもわからない。


 きっと夢を見ているのだ、と思った。だって、さっきまでベッドの中にいたはずなのだから。


 ふと音楽が聞こえた気がして顔を上げると、遠くの方に何かの光が見えた。

 幻想的な明かりに誘われてふらふらと近づいていくと、メルヘンチックなメロディに合わせ、木馬たちが上下に揺れて回っていた。

 メリーゴーラウンドだ。

 それで初めてここが遊園地なのだと気づいた。なんとなく見覚えがある気もするが、よく思い出せない。

 ぼんやりと眺めていると、ぽんぽんと肩を叩かれた。

「どうしたのかな?まいごになったのかな?」

 振り向くと、ピンク色の大きなウサギが立っていた。

「これ、あげる」

 差し出された飴玉を促されるままに頬張る。甘くて苦くて酸っぱいような、不思議な味がした。


 ウサギと並んでベンチに腰掛けて、しばらくメリーゴーラウンドを眺めていた。飴を舐め終わってもまだ回転木馬は回り続けていた。それに、誰も乗っていない。が、それが却って幻想的な雰囲気をより濃くしていた。

「きみも、おうまさんにはのらないのかな?」

 問われて苦笑いしつつ首を振る。メリーゴーラウンドで喜ぶような歳でもない。

「それじゃ、もっといいところへつれていってあげる」

 ウサギに手を引かれて歩き出す。

 街灯こそ点いているものの、辺りは相変わらず暗くて人の気配はない。遊園地だというのに、さっきのメリーゴーラウンド以外に他のアトラクションが動いている様子もなかった。

 それにしてもコイツ、やけに大きいな。と思って気がついた。着ぐるみウサギが大きいのではない。自分が小さくなっていたのだ。妙に子ども扱いしてくるのも、そのせいか。

「ほら、みえてきたよ」

 薄汚れたピンクの指が指し示す先に、大きな観覧車があった。その中央には「URANO DREAM LAND」と書かれていた。

 ウラノ。うらの。浦野…?どこかで聞き覚えがあるが、まだ頭がぼんやりしていて判然としない。

 やはり夢を見ているのだろう。でなければこんな子供の姿になるはずがないし、メリーゴーラウンドよりもずっと目立つ観覧車の存在に今まで気づかないわけがない。


 観覧車の前には50人ほどの行列ができていた。

 さっきまで誰ともすれ違わなかったのに、こんなところにはこんなにも人がいたのか。

「ほら、きみもならんでおいで」

 背を押されて最後尾に並ぶ。ウサギは僕を見送ると、何処かへと去っていった。

 少しずつ列が前に進んでいくにつれ、不思議なことに気が付いた。

 降りてきた者がいないのだ。

 ジェットコースターなど、降り口が別になっているアトラクションもなくはないが、観覧車のゴンドラといえば普通は出入口は一か所だ。それなのに、ゴンドラに乗り込む姿は見えるのに、降りてくるところが見えないのは変だ。

 突然頭上からドンドンという音がした。はっとして見上げると、赤いゴンドラに乗っている少年が窓を叩いていた。泣きながら何かを叫んでいるが、窓が閉ざされているのでよく聞こえない。

「――出して」

 出して。確かに、そう聞こえた。ゴンドラはゆっくりと上がっていき、やがて声も、窓を叩く音も聞こえなくなっていった。

 観覧車は回る。列は進んでいく。降りてくる者はいない。

 嫌な予感がして列を離れようとした時だった。

「どこへいくの?」

 色とりどりの風船を手にしたウサギが立っていた。風船には観覧車と同じ、この遊園地のものと思しきロゴが描かれている。

【URANO DREAM LAND】――裏野ドリームランド。

 思い出した。10年以上も前に廃園になって、とっくに取り壊されているはずの遊園地だ。

「ちゃンとならんデなくちゃ、だめだヨ」

 着ぐるみの口元がニヤリと歪んだような気がしてゾッとした。ウサギを突き飛ばして走り出す。

「いけナい子。『現実』に戻ルなンてダメだヨ」

 薄汚れたピンクのマスコットは、着ぐるみとは思えない機敏な動きで立ちはだかった。

 これは本当に夢なのか?

 早く、早く逃げないと。

 走り出そうとして転んだ。

 走る?走るってどうやるんだった?

 足に力が入らない。

「しょうがナイよ。だッて君ニは『本当は』もう走ルなんテできないンだかラ」

 ウサギが近づいてくる。

「わからナいか。覚エてなイもンね?じゃア思い出サせてあゲる」

 指をぱちんと鳴らすと、赤い風船がぱちんと弾けた。その音を合図に、夜空に映像が浮かび上がる。

 病室らしき部屋のベッドに横たわる誰かの姿。見覚えがある。あれは…あれは、自分だ。

 映像はそこから徐々に巻き戻されていく。記憶が鮮明に蘇る。病室に運ばれてくる前。車道から急に車が飛び出してきて、そうだ、あの時、事故にあって、それで、僕の足は、足は――。


 動けない僕を、ウサギが抱きかかえるようにしてゴンドラに座らせた。

「それデはたのシい空の旅を♪」

 ゆっくりと観覧車は回る。ゴンドラが上がっていく。僕はこのままどこへ運ばれて行くのだろう。頂上はいつまでも見えてこない。きっともう地上には戻れない。観覧車から降りてきた者はいなかったのだから。


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