⑸ リサちゃんはツマミフェチ
リサは突然、語気を強めて絶叫した。
「⚡ でもさでもさ、コンピューターって美しくないからダメですぞ! ⚡」
「ハァ〜?」
フミカは思わず語尾を上げてしまった。
「⚡ だってだって、コンピューターってランプもツマミも付いてないんですぞ! 美しくにゃ〜い! ⚡」
「美しくないんですか? コンピューター...」
フミカは混乱している。
「⚡ そそそ! 見た目がカッコ良くないから嫌なのだ! ⚡」
「見た目?」
リサの言葉は徐々に熱を帯びてきた。
「そそ! やっぱさ、機械ってランプ、ツマミ、ボタン、メーターがズラ~と並んでるのが基本じゃない!」
「え? そういうもん?」
「そそそ、iPad とか許せなくない? ランプもメーターも付いてないんだよ?」
(作者注:あくまでリサの主観です)
「え~? じゃさじゃさ、リサちゃんってばパソコンもスマホも使わないの?」
「ウ、悔しいけど使ってます...」
一瞬、下を向いて心底から無念そうな表情をしたリサだったが、すぐに立ち直り、
「でもでも! 機械の基本は違うんだなあ、こうランプがチカチカってさあ...」
なんかリサの目が陶酔状態っぽい、呆気にとられるフミカに、
「シンセ作る時にもさあ、実物を見に原宿の楽器屋さんに行ってみたのね。そしたら薄暗くてカビっくさ〜いお店で、店員さんが古いシンセを見せてくれたんだけど、ツマミがドド~っと付いてて、スイッチなんかオレンジとブルーで、オマケにオマケに! なんと、なんとなんと、正面のパネルが斜めに傾斜してるんですぞ!」
<⭕リサちゃんが楽器屋で見せてもらったシンセはこのあたり⭕>
「あの~、大変申し上げにくいんですが、それって重要な事?」
興奮するリサにフミカは丁重にお伺いした。
「重要 重要 最重要ですぞ! パネルの傾斜してない機械なんて匂いの薄いスカンクのようなもの!」
「ハァ~... 匂いがねえ... そりゃ大変だ。」
「大体ね、今のパソコンが LSI で計算して音を出すなんて許せんよね!」
「それって、よく芸能人が使って逮捕される?」
「そそそ、吸うとス〜っと気持ちよくなって、って違うっつ~の、そうじゃなくて LSI!!! コンピューターの中心部に使ってる部品だよ~!」
「ああ、聞いた事ある。」
「今のパソコンのシンセはね、画面にはシンセそっくりな絵が出るくせに、中じゃ LSI が計算して音を作ってるのだ! わたし的にはこっちの方がよっぽど逮捕だね!」
「ああ、ネットでシンセ検索したけど、画面にツマミとか表示されてるようなのだよね?」
「そそそそ! 手で回せばいいツマミをマウスでチマチマなんて精神崩壊しちゃうよ!」
「あ〜、それはちょっと分かる気がする。」
「そうですわ、スマホで画面のボタンを押すより本物のボタンを押したいと思う事がありませんか? 私たちのシンセは今風ではないのですが... 使いやすいと思うんです。」
「ああ、なるほどね。気持ちはわかる。でも... それはそれ! やっぱり1音だと厳しくない? だってメロディー弾いたら終わっちゃうよね? ライブでメロディーしか弾かなかったらお客さん帰っちゃうよね?」
「そそ、だから安いシンセを2~3台作ってオミにも演奏してもらって、予算が出来たら Midi インターフェイス買って、それで和音も演奏できるようにする計画なのだ! そうすればライブも大丈夫でしょ?」
「Midi? インターフェイス?」
「うん、Midi インターフェイスを使うとアナログシンセでも和音が演奏できるのだ。ま、コンピューター使うからちょっと悔しいんだけどさ...」
リサは苦笑気味に言う。
「な〜んだ、そこでやっぱりコンピューター?」
フミカが笑うとリサは真剣に、
「でもでも! 私たちのシンセはトランジスタや IC が音を出すから正しいのだ! コンピューターに魂を売る気はないのですぞ! ここ重要!」
どうやら譲れない一線があるらしい、リサは続けた、
「で、今フミカが弾いてるのは1音しか出ないからモノフォニックシンセって呼んでて、和音が出るのはポリフォニックシンセっていうのだ。私たち的にはモノフォニックから始めて最後はポリフォニックにしてライブ~! ってな感じ?」
「なるほど~、モノフォニックからポリフォニックねえ。クラシックみたいだね、それ」
「クラシックでも使う言葉なわけ?」
リサが聞くので今度はフミカが説明し始めた。