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それ行けシンセ女子!  作者: MikBug
Day20:9月15日/セ祭当日
79/82

⑺ 時間を稼げ!


 フミカの頭の中が真っ白になった時、美しい歌声が聞こえて来た、それもアカペラで...


“ オミだ! “


 彼女はマイクなしで歌をうたい出した。声楽独特のベル・カント唱法で唄う歌声はマイクが無くてもホールの隅々まで行き渡る。


 フミカはオミの方を見た。しかしオミも目が泳いでいる。恐らくとっさの思いつきで歌い出したのだろう。


 ステージ上での予定外の流れに会場左右からのスポットライトがユラユラと悩むようにオミに焦点を合わせた。


“えっとえっと、なんだっけ、この曲... あ、そうだ!”


 彼女が歌い出したのはアルカデルトのアヴェマリア。アヴェマリアはシューベルトやグノーが有名で、アルカデルト版は昔コメディー番組で使われて有名だったという話しは親から聞いた事があるが、今はさほど知られていないはず...


 多少のトラブルがあっても観客には気づかれにくそうだ。



<⭕♫YouTube によるサウンド♫⭕:アルカデルトのアヴェマリアはこんな曲>

https://youtu.be/CTyqv6XSFNI



"時間は稼げるの?"


 フミカがそう思った時、ステージサイドのスタッフが客席に向けて腕を大きく振った。


 会場の方を見ると PA 卓に座っているレイナが大きな紙を手に掲げて見せた。紙には何か走り書きされている。


『マイク生かしてリバーブ入れた近づけ』


 オミへの指示だ!


 見るとスタッフがマイクスタンドをオミの前方にセットしている。オミもそれに気づいたようだ。


 彼女は歌をうたいながら観客には分からない程度の相づちを打つと、さも演出であるかの如くにゆっくりと歩き、マイクに近づいて行った。


 オミの声はマイクに近づくにしたがってリバーブがつき始め、あたかも教会の大聖堂で歌っているかのように荘厳な響きを醸し出し始めた。


 レイナは再び走り書きを掲げる、


『頑張れ、観客気づいていない、落ち着いて』


 フミカはそれを見て少し正気を取り戻し、ピアノに向かった。


"『アルカデルトのアヴェマリア』 聞いた事はあるし、伴奏の譜面を見た覚えもある... だけど曲の途中から伴奏に入れるだろうか? それに曲を最後まで覚えているか...?"


"と、とにかくオミを助けないと..."


 フミカはフレーズのきりの良い場所から少しずつピアノを弾き出した。うろ覚えなので左手だけで低音を少し入れたり、右手で飾りのような和音を時々弾いたり...


 アルカデルトのアヴェマリアは曲が古く、もともとの構成音も単純なので、こんな伴奏でもさほど違和感はない。さらにレイナが PA でピアノにも深いリバーブを入れてくれたので、音数が少なくても聞いていておかしくなさそうだ。


 インチキヒーリングミュージックっぽい雰囲気はするのだが、なんとなく逃げ切れそうな気がして来た。


 その時、ステージサイドにいる電子工作部のメンバーが手を高く上げて何かを振った。フミカはピアノを弾きながら上目使いにそれを見ると、どうやらペンチのようだ。恐らく配線を切ったりする時に使う工具だろう。


“エ? 何々? それ、リサに投げて渡そうとしてる? いや、そりゃ舞台裏から回るより早いけど、ヤメテ〜!”


 フミカがそう思う間もなく、部員は工具をボーリングのボールのように床の上に投げ出した。


 工具は小さな音をたてながらステージの床を転がって中央に行く。恐らく1階席からは見えないだろうし、2階席の観客からもほとんど気づかれる事はないだろう。


 だけど、その工具、リサの方じゃなくて見当違いなステージ真ん中の方に転がって行くんですけど〜〜!!

 しかも、力が足りなくてリサの所まで届きそうにないんですけど〜!!!


 案の定、工具はステージ中央の見当違いの場所で止まってしまった。


“やっぱ電子工作部員って普段の運動不足がモノを言うかも〜! すみません、神様! 私も、もうちょっと体育の授業頑張ります! さかあがりも練習しますから、なんとかして〜!”


 フミカの心の叫びが聞こえたのか、工具に気づいたオミが、またしても演出のフリをしながらマイクをスタンドから外して手に持ちかえると、ゆっくりと歌いながらステージ中央に移動して行った。


 オミは工具の真上まで来ると、声を張り上げるフリをしながら上体を前後に動かし、その勢いを利用して工具を足で後方のリサの方に蹴り出した。


 工具が床を擦る鈍い音がほんの少し聞こえたと思うと、フミカの正面の鏡には工具を手に取ったリサの姿が見えた。すぐに前屈みになって配線を直すリサ...


 観客にトラブルが気づかれないまま、時間稼ぎの即興アヴェマリアは、それでも2分ほど演奏できた。二人は最後の音を出し終わった拍手の中、ゆっくりと頭を下げながら、電子オルガンの後方を見た。


 しかしリサとサエコはまだ下を向いたまま作業を続けている。


”どうしよう? どうしよう?”


 フミカの意識が再び遠のきそうになった時、PA 席のレイナが、


『ピアノにディレイ入れ音飛ばした、白玉で時間稼げ』


 と書かれた紙を掲げた。


”白玉?なんだっけ? 聞き覚えのある言葉...”


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