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それ行けシンセ女子!  作者: MikBug
Day20:9月15日/セ祭当日
78/82

⑹ トラブル/うしろで起こっている事


”ん? 何の音?”


 不信に思ったフミカが譜面台横に置いた鏡でうしろを確認すると、そこには倒れたシンバルスタンドを元に戻そうとするサエコの姿があった。リサがドラムに戻る時、服がスタンドに引っかかって台から落ちたらしい。


 鏡には前屈みのリサが見えたが起き上がる様子が見えない。


”何があったんだ?”


 フミカの心には一瞬にして不安が溢れかえった。


 すぐに後ろを振り向きたい! だけどそれは出来ない。


"鏡の視界から何が起こったのか判断しなくちゃ..."


 必死になって状況を把握しようとするフミカ... 


 幸いにもピアノ演奏に慣れている彼女にとって、左手で同じパターンを繰り返す無窮動は他の事を考えながらでも演奏可能だ。


 フミカは平静を装って演奏を続けながら鏡に映った後方を凝視した。


"心の入っていない演奏ですね。”


 フミカの頭には、ピアノの先生の言葉がそう響いたような気がした...


 ピアノソロ2周目の中頃、スタンドを元に戻したサエコがリサの方に屈み込むのが見えた。フミカは二人が手先に何か持っているのに気づいた。


 それは派手な色のケーブル、そうシンセユニットとボタン鍵盤をつないでいるフラットケーブルだ。しかし何かがおかしい。1本しかないはずのフラットケーブルをリサとサエコの二人が1本ずつ持っている...


 フミカはケーブルを注視して絶叫しそうになった。


"ケーブルが切れてる!"


 一瞬にして状況は把握できた。倒れこんだシンバルの鋭いエッジがフラットケーブルを真っ二つに裂いてしまったのだ。そういえばシーケンサーで点灯しているはずの LED も消えている。


"トラブルだ、どうする?"


 フミカは終業式の帰りにドーナツ屋でリサの言った言葉を思い出した。


     ○

     ○

     ○

     ○


「"ひっくり返ったシンバルのエッジでギターのケーブルがバッサリなんて事もあるんだって!"」


     ○

     ○

     ○

     ○


 すでにピアノソロは2周目の終わりに差し掛かっている。


 ステージサイドのスタッフが顔の前で両腕を素早く拡げる動作を繰り返すのが見えた。それが『時間を稼げ』という意味だという事は、フミカにもすぐ分かった。


”とりあえずもう1周!”


 フミカはエンディングのコーダに入らず、再びメロディー頭に戻る。会場は相変わらず静まったままだ。恐らく薄暗いステージの、しかも電子オルガンの陰で何が起こっているのかは知る由も無いのだろう。


”このまま続けるべきなのか? 演奏を止めるべきなのか?”


 これが視聴覚教室のステージあたりなら途中でやめて、笑ってやり直すという事も出来るかもしれない。しかし多くのスタッフの力を借り、沢山の観客の見ている目の前で『ゴメン』は許されない。


 しかも、もしシンセが直らなければ残りの曲は演奏できない... って事は、ここでコンサート中断って事もありえるのかも...


“『Show Must Go On』ショーは続けなければならない"


 英語の授業で習った言葉が頭の中を走り抜ける。


 鏡に映るリサの手には工具のような物が見える。ケーブルを直そうとしているんだろう。


”黒髪の令嬢、小林一茶、赤い人参...

黒髪の令嬢、小林一茶、赤い人参...”


 フミカの頭の中には、リハスタでリサに習ったカラーコードの語呂合わせが意味もなくグルグルと呪文のように駆け巡る...


     .     

     .     

     .     


 ソロは4周目に入ってしまった。


 無窮動はあまり有名な曲ではないから何度か繰り返しても観客にはばれないだろう。しかし、いくらなんでもこれ以上繰り返したら聞いた人は変に思うに違いない。


 ステージサイドでは相変わらずスタッフが引き延ばしの指示を出している。


”4周目後半、どうする...?"


 心で問いかけても誰も答えてくれない。自分で決めなくては!


”リサごめん! これ以上引き延ばすのは無理!!!”


 フミカは悲痛な心の叫びと共にコーダに入った。


“『少しでも時間を稼ぎたい!』...”、元々レントの指定でテンポをグッと落とすエンディングをフミカは更にユックリと弾いた。


”そういえば『レントより遅く』って曲あったなあ、あれ誰の曲だっけ。レントより遅い速度指定ってラルゴだったっけ?”


 混乱する思考の中でそんな事を考えながら、最後の音符もフェルマータにして音を可能な限り伸ばした。もちろんそんな事をしたって稼げる時間はせいぜい10秒くらいだ。


 ピアノの鍵盤から指を離すと会場からは拍手が起こる。


 フミカはわざとゆっくり立ち上がり丁寧にお辞儀をしてギョッとした。背景のスクリーンに炎のランナーの映像が映し出され始めてしまったのだ。


 映写室からはステージ上のトラブルが見えていなかったのだろう。確か一昨日放送部の生徒が『"映像の長さは10分ちょっと"』と言っていたはずだ。


”10分ちょっとの『ちょっと』ってどのくらい? 1分? 2分? あとどのくらいでケーブルは直るの? それとも直らないの? 直っても残り時間が足りないと演奏中に映像が切れちゃうよ!”


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