⑴ 客席から観戦
9月13日、今日は午後からホールでリハーサルだ。
フミカたちは1時間以上も前に機材を舞台袖に準備し、客席から他の出演者のリハーサルを眺めていた。
バンドあり、寸劇ありのリハーサル...
プロ並みの演奏・演技をする人がいるかと思えば、セリフが覚えられなくて『ここ何だっけ?』と慌てて台本を見る『民衆その1』や、途中で歌詞を忘れて棒立ちになってしまうボーカリストと様々だ。
客席一番前に設置された PA 卓に座ったレイナは、問題が起こるたびにマイクの位置修正をスタッフに指示したり、時には歌詞を忘れて立ちすくむボーカルに『危なそうだったら大きな紙に歌詞書いて足元に貼っとけば客席からは見えないんで大丈夫だから』などと助言したりしている。
なるほどサエコが言っていたように、面倒見が良さそうな姉御っぽい性格のようだ。
普段は観客としてステージを見ているし、出演する側だとしても、ただ置かれたピアノを弾いて戻るだけの経験しかないフミカには、人のいない客席、演奏中にも舞台と客席を行き来するスタッフ、突然明るくなったり暗くなったりする照明、と全てが刺激的だ。
もっともそれはリサもオミも同じようで、前の座席に両腕を乗せたり、頬杖をついたりしながら舞台に見入っている。
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3人は昨日、レイナとの問題を再協議したのだが、一昨日の靴箱でリサの声が聞こえたかどうかが分からないのに、わざわざレイナに何かを聞くのは変だ。
もし聞こえていないのに余計な事を言ったら墓穴を掘るだろうし、聞こえていたとして何を言えばいいのか? これまた場合によってはかえって関係を悪化させる可能性もあり得る。
それに、サエコによると、レイナはそう言った事をあまり気にしないタイプのようだから、もしかしたら全然問題ない事なのかもしれない。
いずれにしてもセ祭準備中に、双方がこの事を話し合うような時間も心の余裕もなさそうだ。
そういうわけで3人は、この問題に気を取られずに、とにかくセ祭のステージを成功させる事に最大限注力しようという事で意見の一致をみた。
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そんな中、客席のリサたちに声をかけて来た生徒がいた。
「あの、LFO のメンバーの方ですね? 私たち放送部の者です。後ろのスクリーンに映す映像を担当してます。各出演者の背景に放送部で作ったロゴや映像を流してます。LFO の背景映像はグループのロゴと、提出された演奏リストから『炎のランナー』の動画を編集した物にしようと思うんですが、どうでしょうか?」
なるほど、さっきから見ていると、時々背景にバンド名が出たり風景動画が流れたりしている。これは放送部が担当しているらしい。
「あ、ロゴ入るの嬉しいです。『炎のランナー』も動画が入ったらカッコ良いですよね。是非お願いします!」
「一応、動画は10分ちょっとに編集してあるんですが、それだけあれば大丈夫ですよね? 最後の部分はブッツリ切れていますが、演奏が終わったら途中から徐々に背景を暗くして終わるように調整します。」
「そうですね。曲の長さは4分ほどですから10分あれば充分だと思います。」
「映像はいつスタートすればいいですか?」
「『炎のランナー』の前に私がピアノソロで『無窮動』っていう曲を弾きますから、それが終わったらスタートでお願いできますか?」
放送部員は声に出して確認しながらメモを取った。
「ピアノソロの後すぐに映像スタート、演奏は4分程度で終了予定... 分かりました、それじゃこの後のリハーサルで部分的に映像を流してみますから確認して下さい。」
「了解しました。それじゃリハよろしくお願いします。」
リサがそう言うと、部員たちは軽く会釈して別な出演者の方へ移動して行った。
「映像が入るなんて、なんか本格的だよね?」
「演奏中には自分たちで映像が見られないので少し残念ですね。」
フミカたちは期待しながら自分たちのリハーサルの順番を待った。




