⑵ やっちまったよ
3人が日曜の本番の事をアレコレ話しながら玄関口に向かっていると、下級生たちがこちらをチラチラ見てヒソヒソ話をしている。
この間、フミカが下級生に一言いわれた日から校内では何となく監視されているような不快な視線を感じる。
かと言って、何かあからさまに嫌がらせをするというような事はない。嫌がらせでもされた方がいっそのこと大ゲンカしてスッキリしそうな気もするのだが... まあしかしそんな経験もないので何とも対処のしようがない...
“こういう状態って、普通に怒ったりするよりかえって体力も精神力も消耗するもんだなあ”
とフミカは思った。恐らくリサもオミも同じ気持ちだろう。
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「また例のレイナ様命な乙女たちだよ。いい加減にしろって感じだよね。」
「まあまあ、リサが不愉快なのも分かるけどケンカでもしたらますます状況悪くなるしねえ。」
「聖書の時間に習った『最後まで耐え忍ぶ者は救われる』ですわ。」
「いんや! 『しつこい訴えにウンザリした悪徳裁判官が耐えかねて訴えを聞いた』ってのも聖書にあったでしょ! 聞いてやろうじゃないのさ、訴えをさ!!!」
耐えかねたリサがブチ切れた!
彼女はフミカたちが止める間もなくクルリと向きを変え、下級生の方へつかつかと一直線に歩いて行ったかと思うと、
「あら? みなさん何かしら?? 御用でしたらおっしゃっていただければ嬉しいですわ。オホホホ〜!」
オミを彷彿とさせる口調だが、慇懃無礼な雰囲気が言葉じりからビシバシ伝わって来る。
「い、いえ... 特に何もありません、ハイ... 失礼します!」
下級生たちは突然のリサの言葉に返す言葉もなく蜘蛛の子を散らすようにその場から立ち去って行った。
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唖然として見ているフミカたちの方へ戻って来たリサは、
「ふんだ! 言ってやったもんね〜だ! ちょっとスッキリしたかも。さ、行こ行こ!」
そう言いながら玄関の靴箱へサッサと向かって行った。
急いでリサの後を追いかけたフミカが、
「だ、大丈夫かなあ...」
と心配する。
「知らんもんね! もうステージで『4分33秒』でも演奏しちゃったらどうよ?! ついでにアンコールに『0分00秒』を100回繰り返し!!! そしたら PA もいらないし、ラインもいらないからミキサーも楽チンで. す..ぞ... なんちゃ... って...」
玄関へ向かうリサは急に口ごもったと思うとハタと立ち止まってしまった。
後ろから急いでついて行ったフミカとオミは、つんのめりそうになりながら、
「どうしたの?」
とリサの視線の先を見てギョッ!とした。そこには一つ隣の靴箱の影から玄関に歩いて行くレイナの後ろ姿が見えたのだ。
3人は立ちすくみ、
「 今の 」
「 聞かれ 」
「 ましたでしょうか? 」
と、かわるがわるヒソヒソ声で言った。その前を机を移動する生徒の行列が通過して行く...
机の行列が通り過ぎると、そこにレイナの姿は見えなかった。
「聞かれてしまったでしょうか?」
「でも明らさまに悪口言ったわけじゃないし... それに周りもガヤガヤしてたし大丈夫かも...」
「でも聞こえていたかも知れませんし...」
「聞こえてなかったかも知れないし...」
「 わからない。 」
「わかりませんわ。」
フミカとオミが悩んでいると、誰もいなくなった玄関口から教会のバザー準備を呆然と眺めながら、リサがボソッと言った。
「イエス様は正しかったよ。『汝の口より入るもの汝を汚さず、口より出ずるもの汝を汚す』。クチは災いの元...」




