⑵ 裏技
「 エ?! 」
男子たちは興味津々にオミの方を見た。
「私たち、ステージで『テキーラ』という曲をやるんです。それで... その曲は途中、みんなで『テキーラ!』って叫ぶんです。私たち、なんとしてもステージを盛り上げたいので、率先して叫んで下さる『サクラ』の方を探しているんです。サクラをやっていただければチケットを差し上げます、如何ですか?」
フミカは『そんな事して大丈夫なのかな?』と思ったのだが、みんな、
「そんな事で良いならお安い御用だよ! 任せといて!」
と喜んでいる。
オミはバッグからチケットを取り出すと、
「私たちのセシル祭は、彼女が言ったように親類縁者しか入れないんです。でも教会のバザーも併催していて、そちらは地元の方にチケットを配っているんです。ですから最初にこのチケットで教会のバザーの方に入場して下さい。一度入ってしまえば敷地の隣で開催している学園祭にはフリーパスで入れてしまいます。何食わぬ顔で入場して下さい。先生や教会のシスターとすれ違っても堂々としていれば、絶対に大丈夫です!」
と言いながら、チケットに自分の名前を記入して渡した。
「OK, OK! 盛り上げ任しといてよ! 絶対盛り上げマッスる!」
男子たちは大騒ぎだ。
そこへ駐車場からロビーに降りて来たオミパパが『ゴホン!』と咳払いをしながら、オミと男子の間に体を割り込ますように、
「オミ、車置いてきたから、シンセはスタジオに運ぶのかな?」
と、妙に優しく言った。
「あ、お父様、それでは奥のBスタジオへお願いしますわ。」
オミはそう答えながら男の子たちに軽く微笑んだ。
「それじゃ、当日!」
男子たちは挨拶すると、元いたテーブルの方へ戻って行った。
シンセを運び込むオミパパの後ろ姿を確認しながらフミカがヒソヒソ声で言った。
「オミちゃんやるね~! 度胸あるし、知能犯!」
「この裏技は先輩から伺ったんです。でも、ちょっと罪ですよね。フミカさんに許していただかないと... 私もフミカさんの罪を許しますから!」
オミはクスッと笑った。
"それにしてもオミパパ心配しちゃって口調がいつもと違うし!"
フミカはそう思いながら、手を後ろに組んでスタジオへ入った。




