⑵ 対策
室内ではリサとオミがシンセのパネルをいじりながら、
「あ、フミカ! だいぶ出来たでしょ? シンセは3台分完成したし、シーケンサーも動くようになって、バッチリですぞ〜!」
とシンセユニットを指差した。パネルには8個の LED が端から順番にピカピカと点滅し、まるでクリスマスツリーのようだ。
しかしフミカは所在なげに言った...
「今さ、廊下で下級生に『レイナ様にもっと協力してあげて下さい!』って陳情されちゃったよ。きっとサエ師匠の言ってた親衛隊の子だと思うんだけど、みんな大丈夫だった?」
「そういえば、今朝から何となく人にチラチラ見られているような... チェックされているような視線は感じていましたわ。」
「ああ、確かに! 歩いてると、こっち見てヒソヒソ話してるみたいな... あれがそうだったのか...」
やはり二人とも妙な感じはしていたらしい。
「そう、サエ師匠が言ってたレイナさんの親衛隊だよね。夏休みで、すっかり忘れてたけど、尾を引いていたとは... う~ん、大丈夫なのかなあ?」
「でもサエ師匠は、『ほっときゃ良い』って言ってたよねえ。」
"どうせ何もできやしない..."
フミカはサエコの言葉を思い出した。
「烏合の衆というタイプでしょうかしら? 気分の良いものではありませんわ。ただセ祭のステージはレイナさんが PA 担当ですから、問題を起こせばレイナさんにも被害が及びますから、彼女たちが何かをするとも思えませんが...」
「そうねえ。私が言われたのも『レイナ様にもっと協力してあげて下さい!』っていうのと『PA を勉強して下さい』って...」
リサは苦笑しながら、
「PA の勉強ったってねえ... まあ『ご意見は承らせていただきます』っつ~しかないよねえ... 向こうも激怒してるわけじゃなさそうだしさ!」
「そうそう、私たちがレイナさんと上手くやれれば問題は解決って事だと思うな。」
「レイナさんはまだ会議の事を怒っていらっしゃるとか?」
オミが聞くと、リサとフミカは顔を見合わせながら『う~ん』と考えた。
「それはないと思うけど... あの場でも一応謝ったしねえ。」
リサの意見にフミカも、
「うん、謝った謝った。もしまだ怒ってたとしても、一ヶ月以上たった今になってもう一度謝るっていうのも変だよねえ... そんな事したら益々こじれちゃいそうだし...」
「このままこじれて親衛隊を巻き込んじゃったら炎上状態だよね。」
「炎上は避けたいよねえ...」
「えんじょうと言うと落語家の?」
「なんすか、それ?」
「ご存知ありませんか? 落語にシンセを取り入れた方ですわ。」
「え? 知らないよねえ、そんなの...」
「そうですか? お父様が『リサちゃんってノリが良いから、こういうシンセも向いてない?』と聞かせてくれたレコードにあったんです。」
「なになに? 私がお笑い系? 真面目な私をつかまえてオミパパったらなんて事を〜!」
「え〜? リサちゃん自分がお笑い系って自覚ないの? 目指せ吉本とか言ってたじゃない。」
「あ、ま、確かに! ナハハ...」
「シンセ落語は古いのですが、その後もパソコンを持ち込んだ落語をやったり、最近では iPad も使ってるそうですよ。」
「う〜ん、どこジャンルにでもマニアックな人っているんだねえ。」
(注:三遊亭円丈は落語家。炎上と引っかけて相変わらず過激な落語をやってます。詳しくは、”http://enjoo.com/rakugo/“ 参照。)
「って、またマニアックな話題に行っちゃったけど... でも、悩んでても仕方ない。とにかく本番が近いし、PA が上手くいけばレイナさんも満足すると思うし... あと親衛隊の人たちも盛り上げて巻き込んじゃえないかねえ?」
「『テキーラ!』の掛け声を、彼女たちにも言わせちゃうとか...」
リサがボソッと言った。
「なるほど〜!」
「それは良いアイディアですわ! きっと盛り上がってシコリなんて消えてしまいますわ! でも、どうやりましょう?」
「ウ~ン、そうだねえ。テキーラをやる前に練習タイムとってさ、親衛隊のいる辺指定で 『テキーラ!』の掛け声レッスンとかしたらどうかね?」
「うん、それ良いかも。上手く乗せられれば心のわだかまりも一気に解消…か?」
「そうですわ、それで行きましょう! 親衛隊の方々に『テキーラ』と言わせる事が出来れば、We Win です!」
フミカは笑いながら
「RPG みたい! でも We Win 目標に頑張ろうよ!」
「決まりましたぞ! 今年のセ祭の目標は親衛隊に『テキーラ』と叫ばせる事ですぞ! 頑張りましょう! エイエイオ~~~!」
リサは拳を振り上げた。フミカもオミも思わず釣られて手を上げて、
「オ~~~!」「オ~~~!」
と気勢をあげてしまったのだった。




