⑵ 変な人に認定されますた
昼休み、フミカが友達と話しているとリサが教室にやって来て、
「今日も部室来る? 新しいシカケ見せたげるよ!」
と明るく声をかけて来た。
「シカケ? 何の?」
「へへ~、内緒! 凄いんだよ! 楽しみにしててね!」
リサはそれだけ言うと向こうへ行ってしまった。
フミカはリサと話し続けようとしたが、彼女はもう教室の外...
どうもフミカは、こういった会話の切れ目を上手く見つけられない。突然会話を切られてしまったり、逆に話をやめたいのに会話のエンディングを見つけられずに、必要もない言葉をつなげてしまったり...
フミカの心が一瞬宙に浮いていると、クラスメートが聞いてきた。
「あれ? 今の子フミカと同じピアノ部? 秘密兵器作ってる子じゃないの?」
と腑に落ちない様子だ。
「違う違う! そうじゃなくて私が彼女の部室に...」
口ごもるフミカにクラスメートは次々と、
「エ~! あの正体不明な?」
「北校舎の一番奥にある謎の?」
「時々電波出してて〜〜」
「不気味な音も聞こえる。」
「一人でブツブツ喋ってる人がいたりするよね?」
「もしかして、フミカもマッドサイエンティスト系に入信?」
とクスクス笑っている。
その笑いは楽しい笑いではなく、かと言って人をバカにした嘲笑でもない、完全に友愛の情の表れでもない不思議な笑いだった。
「イヤイヤイヤ、そうじゃなくってえ、昨日、電子工作部でシンセサイザーを見せてもらったら凄く面白そうで、ちょっと興味持ったっていうか...」
フミカのちょっと戸惑った反応を見て、クラスメートたちは、
「シンセサイザー? なにそれ?」
「なんか怪しい機械ぽっくね?」
「日本語だと合成装置だよね?」
「やぱし! あれだよアレ! グニョグニョした物質を合成する機械! あっぶな~!」
と勝手な事を言い出した。昨日の電子工作部の部員たちと似たり寄ったりだ。
「いや、シンセは音を出す楽器で怪しくないよ~! まあ、ちょっとビリビリって来そうな気はしたけど... あ、でも電子ビックリ箱とかじゃ、ないんですぞ!」
思わず昨日のリサの口癖を真似てしまった自分にフミカは顔をゆがめる。
その不可解な表情を見て、クラスメート達は『待ってました』とばかり盛り上がった。
「エ~! ビリビリって感電しちゃったら死んじゃうじゃん!」
「わかった! それで死んじゃっても合成装置で生き返るわけだ!」
「確かに! あの怪しい部ならやりかねない!」
「フミカがマッドサイエンティスト教に入信しても、 私たち友達だからね! 刑務所に入っても、私、差し入れ持ってったげるから(;_;)」
と、ウルウルする娘まで... もう電子工作部ボロクソ状態。
フミカは、なんとかしてみんなに昨日の面白かった事を伝えようと必死になった。
「そ、そんな事はなくってぇ...なんかボタンを押してツマミを回すと音程が変わるの。まだどうやって演奏したら良いか分からないんだけど、なんだか凄く楽しそうなんだよ!」
そんな彼女の表情に、クラスメート達はだんだんと可哀想な子を見る目になってきた。
「演奏の仕方もわからない楽器を弾いてあげるなんて、慈愛に満ちてシスターにも喜ばれそう...」
「うん、まあさ、フミカが幸せならそれで良いんだよね。」
「そうだよ! マッドサイエンティストに感染したって私たち友達だからね! 気を強く持って!」
刑務所行きから感染症認定までされてしまったフミカは、なかば諦め気味に、
“マッドサイエンティストねえ、確かにいきなりあの部屋に連れて行かれたら、私だってナニコレ?! って違和感しか覚えなかっただろうなあ... でもシンセの音が面白いって分かったら、なんだか考えが変わっちゃったみたい、もしかして、これが入信だったりして?!"
そうつぶやいているフミカも、あの不思議な笑いを浮かべているのだった。




