⑵ リサのオープニングプラン
部室の中央にボタン鍵盤の乗った電子オルガンと Midi キーボードを並べ、その真ん中にシンセユニットを置いた。
シンセユニットには、ボタン鍵盤と Midi キーボードからグニャグニャと伸びた綺麗な色のケーブルがつながって、電子工作部員がいたら大騒ぎしそうな怪しい科学な雰囲気が漂っている。
今日は当日演奏する順番に曲を練習する予定だ。
お盆休み前の打ち合わせで決定した曲順、
1:幕開けの前衛風パフォーマンス>3分
2:バッハ『主よ、人の望みの喜びよ』>3分
3:ポップコーン>3分
4:テキーラ>2分
5:ピアノソロ>3分
6:炎のランナー>4分
これに曲間のナレーションと前後の片付けが7~8分入ったとして、丁度持ち時間の30分になるはず...
オープニングの前衛風は『シンセでどんな音を作るか?』にかかっているのでリサが音色と演出のアイディアを考え、進行表をプリントアウトして来た。
リサの演出には中々詩的なタイトルが書かれていた...
ーーーーーーーーーーーーーーー
1:<暗黒の世界>
最初に幕が上がり出す時、オミが重低音で VCF のカットオフ・フレケンシーを上下しながら音色を変える>15秒間
2:<一条の光>
フミカがグランドピアノのペダルを踏んだまま、一番上と一番下の音を3秒おきに鳴らす>15秒間
3:<混沌から秩序へ>
オミが電子オルガンでメチャメチャな和音を押さえ続ける
その途中からフミカが長いポルタメントのシンセ音で音程を上下させる>60秒間
4:<動乱>
オミがシーケンサーにセットされた8音の繰り返しフレーズを鳴らしながら VCF のカットオフ・フレケンシーをいじって遊ぶ>30秒間
5:<終着の浜辺>
その後はなんでもいいからみんなで適当に音を出し、3分たったらオミとフミカは一番低い音を出して徐々に消えて行く。
その間、リサはシンバルのロールやウィンドチャイムで場を盛り上げる。
ーーーーーーーーーーーーーーー
"ウヮッ、なんか怪し〜! ウサンクサ〜!”
フミカは紙を見ながら思わず考えてしまったのだが、リサが真剣な目で内容を説明するのを聞いているうちに、なんだか『これってありかも?』という気がして来た。
今日はドラムが無いのでリサは買ったばかりのマレットとスティックで、その辺にある鳴りそうな物を片っ端から叩く事に...
.
.
.
「とりあえず適当にやってみよっか?」
リサが言うので、3人はとにかく実際に音を出してみる事にした。
フミカは、並べた機材の前に座ってシンセとキーボードを眺めたりボリュームをいじってみると、なんだか宇宙船の操縦席にいるような気がして気分が高揚してきた。
"オォ〜、ついに私もマッドサイエンティストの仲間入りしてしまった〜!"
フミカがそんな事を考えていると、オミがシンセで重低音を鳴らし始め、リサは壁際にある金属ラックを叩き始めた(これが結構いい音!)。フミカも持ち出したキーボードでピアノの音を鳴らす。
"なんか前衛的!"
間違って行っちゃったクラブ↑のシンセもトランスしたけど、前衛風も結構トランスする! うねるような音が続く中、ポルタメントの聞いたサウンドで適当な音程を弾き始める。
”こ、これは中々面白いかも!”
フミカは心の中で、そう思いながら音程を上下させた。
あれこれとフレーズを弾き、進行表に書かれた流れを一通り演奏し終わったので、全員トランスから覚め、最低音を弾きながら曲を終わらせた。
.
.
.
「うん、こんな感じで良いんじゃない? これ結構面白いよね?」
「うんうん、面白い! 時間が経つの忘れちゃって音に没頭しちゃうよねえ!」
フミカはそう言いながら時計の針を見て驚いた。
「え? 今、私たち20分くらい音出してたみたいだよ?!」
全員が壁の時計を見てビックリした。
「これは危険ですわ。時間の感覚が無くなってしまったようです。いわゆるトリップという状態なのではないでしょうか?」
トリップもいいが、演奏するのは学園祭のステージであって、ヒーリングスクールの瞑想の集いじゃない。
「こりゃ気をつけないとオープニングが終わったらステージ終了になりかねないわ。当日は全員目の前に携帯とかで時計表示させてキッチリやりましょう。」
リサの提案に、みんなうなずいた...
"だけど、これはやっぱり凄い事になる!"
フミカの心の底には、そんな確信が湧き上がって来た。
本番まで2週間ちょっとだ!




