⑴ YouTube にもシンセ動画結構あるよね
8月5日の午後、フミカはオミ家のピアノで譜面の確認作業を行っていた。今日を逃すと、お盆休みもあって8月後半まで会えないからちょっと真剣だ。
オミは自分でアレンジしたバッハの『主よ、人の望みの喜びよ』をピアノの譜面台に置きながら言った。
「とりあえずネットで見つけたオルガンと合唱の譜面を元に LFO バージョンを作ってみました。フミカさんと私がキーボード、リサさんはパーカッションを演奏します。」
オミはそう言いながら、ピアノで各々のパートを低い音域で簡単に弾き始めた。フミカもそれに合わせて高い音域で演奏に参加した。
「最初は私が右手でメロディーとベース、オミちゃんが和音部分...」
「そうですね。一節が終わるとフミカさんはお休み、私がオルガンでメロディー、これにすぐフミカさんのシンセが絡んで来ます。」
「凄い凄い! 二人が順番に絡むようになってるんだ!」
フミカは譜面を眺めながら感動したが、オミは、
「いえ、これほとんどネットの譜面をシンセとオルガンに置き換えただけで、私はあまり手を加えてませんの...」
と微笑んだ。
「OK! じゃ、オミちゃんの書いたラフ譜面を綺麗に書き写して自分用の譜面にしようよ!」
二人は真新しい五線紙に定規で小節線を引くと、オミの書いた元譜から自分のパートだけを書き写し始めた。
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書き写すだけの単純作業... フミカは退屈してきて雑談を始めた。
「そういえばさ、ネットで調べてたんだけど、リサちゃんみたいにシンセのモジュール作る人って結構いるみたいでさ、それを売るサイトもあるのね!」
「YouTube にそういったモジュールのデモ動画が沢山ありますよね。あ、フミカさん、そこ2小節目の頭 G ですね。」
「おっと間違えたっと... でさでさ、動画は私も見たんだけど、もうリサちゃんが狂喜乱舞するような巨大なシンセでランプとツマミの嵐なんだけど、それで鳴らしてる音が〜...」
「やはりクラブ↑系ですか?」
「いやいやいや、クラブ↑は、それでもリズムあったけど〜... それすらない... う〜ん、つまり効果音? 面白いのあれ?」
「面白いと思うからアップしてるのでは?」
「ウ、確かに... 作った人は凄いこだわってるらしくてさ、ボリュームの意味とか説明してるんだけど、それ動かしても何が違うんだか全然わかんないんだよねえ... あ、3小節目の3つ目の音は A?」
「そう、A ですね。でも、こだわってる人には分かるんでしょうねえ。」
「だねえ。東急線と京王線の電車の音を聞き分ける的な?」
「好きな方いらっしゃいますよね。アンドロメダでしたっけ?」
「ああ、ピアノ弾きながら鉄道解説する人ね! 聞き分けてそうだよね。『これは東武東上線の新型車両ですね』とか...」
「弾き鉄っていうんでしょうか?」
「私たちも続けてると聞き分けられるようになるのかねえ? 『これはローランドの20年物のシンセですね。』とか...」
「ワインのテイスティングのようですね。」
「あと、『フン! お前の作ったヴァイオリンの音はその程度か! ワシが本物のヴァイオリンの音をこのシンセで作ってやる!』『な、なんて事だ! こんな安いシンセで、あんな素晴らしい音を出すとは!』みたいな漫画とか...」
「あるんですか? そんな漫画。」
「いや、ないと思うけどさ、あったら斬新だよね。」
「でも音の聞き分けぐらいなら、ある程度出来そうですよね? だってピアノは会社名くらいなら分かりますでしょ?」
「ああ、そうだね。ヤマハ、カワイ、スタインウェイ、ベーゼンドルファーとか有名所は CD で音聞くと分かるもんね。型番までは分からないけど、極めれば分かるのかも...」
「あ、フミカさん、私のオルガンソロの後で入って来るところ、見失わないように、譜面に印を付けておくといいですよ。」
「おお、そだね。印、印っと... で、動画の話に戻るけど効果音みたいなシンセって楽しいのかねえ?」
「ツマミいじって音が変わるのを楽しんでるのでは?」
「なるほど、そういう考え方か〜... 高尚な遊びなのかも、って事はツマミ大好きなリサちゃんも、ああゆうの好きって事なのかな?」
「好きでしょうけれど、それで行き詰まったのでフミカさんが拉致されたのでは?(笑)」
「あ、そかそか。やっぱりアンサンブルになってた方が面白いよねえ。」
「そう思いますね。ちゃんと譜面で指定されたように弾くとか。」
「だよね。ま、人それぞれかも知れないけどさ!」




