⑴ リサちゃんって娘
翌朝、
「おはよう!」
「朝までゲームやっちった。」
「眠い~。」
と、元気な(一部元気でない)声が響く中、フミカはリサに話を聞こうとキョロキョロしながら登校していた。
後ろから、
「おはようございます。」
の声が...
“この礼儀正しさはオミさん”
振り返るとそこには笑顔のオミが立っていた。
彼女達の通うミッションスクールは都内では中の下レベルのお嬢さん学校なので、みんな一応礼儀正しい。が、語尾に『ですわ❤️』とナチュラルにつくタイプの娘はそう多くない。
フミカは『おはよう』と返すべきか『おはようございます』と返すべきか悩みながら、とりあえず、
「おはよう。」
と返事をしてみた。
オミは微笑みながら、
「昨日は楽しかったですわ。リサさんも楽器を演奏して下さる方が見つかり大変喜んでおられました。」
と言ったのだが、フミカは思わず、
「でも、あれって演奏って言えるのかな? それにあれって楽器なのかなあ?」
と、率直な疑問をぶつけてみた。
「大丈夫ですわ。今は基板だけでも拡張すれば立派な楽器になるとリサさんも言っていましたもの。」
「あの部品の付いたの板みたいのが基板? オミさんも詳しいの?」
「いえ、それほどでも。リサさんと一緒にいると、いつの間にか覚えてしまいますの。あの板が基板、その上に付いている部品は抵抗、コンデンサー、IC等、それをハンダ付けするわけですが... 私に分かるのはこのあたりまでですね。でもこの程度でも覚えると楽しいものですわ。」
<⭕パーツはこんな感じ⭕>
「十分詳しいよ! 音楽の事は?」
「音楽は小さい頃にピアノを少し、あとはギターや声楽も少々。どれも趣味の域ですが...」
“おー! やっぱお嬢様は声楽やるってか?”
フミカは心の中で、自分のお嬢様像が正しい事を確信した。
「フミカさんはどんな音楽がお好き? ピアノはいつ頃からやってらっしゃるの?」
「ピアノは小さい頃から親に習わされて。でも途中から結構楽しくなっちゃって自分でも練習するようになって、今はピアノ部所属。好きな音楽は... 軽めのクラシックかな。ショパンとかドビュッシーとか、のだめカンタービレの影響かな?」
フミカはペロッと舌を出しながら、ちょっと肩をすくめて話した。
「そうですか。リサさんは音楽に疎いので良い組み合わせで嬉しいですわ。」
「リサちゃんって女の子なのに電子工作好きって珍しいよね?」
「そうですわね。リサさんのお家は電気屋さんなんです。昔は簡単な修理は店内でやっていたそうで、そういった環境で電子工作に興味を持ったようです。そうそう、リサさんは昔からイタズラも好きで感電するビックリ箱でおどかされた事もありました。」
「エ~! それ良いの? 逮捕されちゃわない?」
「電子イタズラとしては古典的で、マニアな方は一度は作るとか... 電流が弱いので危険はないそうです。心臓の悪い方には別でしょうが。」
「でもちょっと怖いよねえ。昨日の基板だってビリビリきそうだし...」
そんな会話をしている間に二人は学校に到着した。リサには会えなかったが、色々わかってきた。
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チャイムが鳴りフミカのクラスが着席して静かになると、廊下を、
「〽️ ヒャー! 〽️」
っと叫びながら走って来る声が聞こえた。
みんなクスクスと笑ったが、あの声はリサ!
“あ~あ、リサちゃんってば遅刻! 理系の人は朝が苦手かな?”
と思っているとドアの開閉音が聞こえ、周囲は再び静寂を取り戻した。
“リサちゃん、間に合ったかなあ?"