⑶ 理系会話の暴走はこんなもん…か??
(作者注:この節の大部分は理解しないでも平気なので、適当に読み飛ばしてね!)
3人があれこれ話していると、入り口の方からテイクアウトのドーナツ袋を抱えた生徒が声をかけて来た。
「『不純異性交遊』なんて言葉が聞こえたから、誰かと思ったらリサじゃん!」
さっき、電子オルガンを一緒に運んだ電子工作部の部員の一人だ。
「あ、マリリン! さっきはサンキュ!」
リサがマリリンと呼んだ部員は聞いた。
「こんなとこで、お茶して何話してるんだか! で、どうよ? シンセの開発状況は。」
「うん、今ね海外からキットを買うのに資金が必要だねって話をしてたとこなんだ。」
リサがそういうと、マリリンは眉をひそめながら3人の横に座り、二人での会話が始まった。
「キット? 珍しいね、全部手作りじゃないんだ?」
「そそそ、Midi をアナログシンセの仕様に変更するのにインターフェイスが必要で、それはキットにしようと思って。」
「なんで? そんなの作りゃいいんじゃないの?」
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(作者注:ここから先は♻️のマークまで、ほとんど読まなくても可だよ〜!)
「そそ、回路は簡単なんだけどさ、ファームウェアの問題があって...」
「んん? Midi を CV/Gate に変換するだけなのに?」
「そそそ、それが、モノフォニックの単音なら簡単なのね。例えば『ド』の鍵盤を押さえて、次に『レ』の鍵盤を押さえたんなら、単純にひとつのボイスに対して『ド>レ』の CV を順番に送ればすむわけね。」
「うんうん」
「ところがさ、ポリフォニックでボイスが沢山あるシンセだと結構問題が起こるんだよ。例えば『ド』を2回続けて弾いたとするでしょ?」
「うん」
「最初の『ド』は当然ボイス1で発音するよね?」
「そりゃ、そうだ。」
「じゃあ2回目の『ド』はボイス1で引き続き発音させるのが良いと思う? それともボイス1は残してボイス2で発音させるのが良いと思う?」
「もしボイス1の『ド』が発音を終了してればボイス1で、発音が終了してなければボイス2でって考えるのが妥当かな?」
「だとするとさ、ボイス1と2で発音が終了してるかどうか? は何らかの方法でスキャンしてなきゃいけないよね?」
「なるほど! そういう事になるね。」
「そうすると、各ボイス毎に発音中かどうかを判断するセンサーとプログラムが必要なんじゃないかな?」
「確かにね。」
「あと、例えば『ド』を弾いてる時に、4つのボイスが全部『ド』を鳴らすようにしてたとするじゃない?」
「ふんふん。」
「次の瞬間に、和音で『ドミソ』って弾いちゃったら音の数が3つになるわけだから、ボイスがひとつ減るか、『ドミソ』の音のうち、どれかひとつはボイスが2つ鳴る必要があるわけじゃない?」
「あ〜、そうだよねえ。」
「でもさ、それってプログラム上でどう判断したら良いと思う?」
「なるほど〜! それは難しい問題だよね。」
「でしょでしょ?」
「それは弾く人の弾き方とか鍵盤を押さえるタイミングにも関係して来るよね?」
(♻️)
「フミカさんは、その辺、どう思うの?」
いきなり訳の分からない質問を振られたフミカはあせって、
「えと、そうねえ、それは人それぞれだし、まあなんと言うか... 前向きに善処してですね... 事態を打開の方向に展開すべく万全の方策をもってですね...」
と、何だか国会議員の答弁のような発言をしていると、リサが割って入った。
(再び、次の♻️マークまで呼び飛ばしても平気かも!)
「でもさ、そういうのって多分、ボイスアサインの定石みたいな方法があると思うんだ。」
「定石って?」
「例えばさ、同じ音程が来たら同じボイスにアサインするとか、空いているボイスに順次ローテイトで回して行くとかさ。」
「フンフンフン。」
「そういうのって、フミカに弾いてもらいながら、プログラムを修正して行くのが良いんじゃないかと思うんだけど、セ祭までにそんな時間がないし、それなら定石プログラムがファームウェアに入ってるキットを買った方が安全なんじゃないかと思ったってわけ。」
「なるほど〜! 一理あるね。」
(♻️)
「それにさ、万が一自分たちの書いたプログラムにバグがあって、曲が終わったのにシンセの音が鳴りっぱなしで止まらなくなっちゃったりしたら、かなりカッコ悪いと思わない?」
リサはフミカに同意を求めるように言った。このくらいの話題ならフミカにも分かるので、
「そりゃそうだよね。感動のエンディングでジャン!って終わったのに、シンセだけ『ピ〜〜〜』って鳴ってたらかなりオマヌケだもんね。」
(さらに次の♻️マークまで読み飛ばしても平気です〜!)
と答えると
「でしょでしょ? だからキットにしてみようと思ったってわけなのですぞ!」
「なるほど、その方が安全かもね。」
「まあ、キットにすると CV の規格を Oct/V(オクターブ・パー・ボルト)にする必要があって、面倒ではあるんだけど、後々の事を考えれば Oct/V の世界規格のシンセを作った方が便利だろうしね。」
「Oct/V(オクターブ・パー・ボルト)?」
「そそそ、音程とかコントロールする電圧をオクターブあたり1ボルトに統一するわけ。」
「こないだのは違ってたわけ?」
「そ、今までのは Hz/V(ヘルツ・パー・ボルト)になってて、単純に CV に対して周波数が正比例で出力されてたわけ。」
「それじゃダメなの?」
「回路は単純だし、ピッチの安定度も高いんだけど、音程を上げるにしたがって CV の変化幅が大きくなってっちゃうんで困るんだよ。」
「ほ〜、って言うと? どんな不都合があるわけ?」
「オクターブって周波数が2倍か1/2になるでしょ? そうすると Hz/V の規格で仮に1ボルトで100ヘルツの出力が出る VCO があったとすると、1オクターブ上の音を出すためには2倍の200ヘルツで、2ボルトの CV が必要になるのね。」
「そういう事になるよね。」
「ところがさ、Hz/V で、2ボルトで200ヘルツ出てる VCO の音程をもう1オクターブ上げようとすると200x2だから4ボルトの電圧が必要になるし、さらにオクターブ上げようとすると8ボルト必要になるわけ。」
「なるほど、オクターブに対して CV が対数尺になっちゃうわけか。」
「そそそ、だけど Oct/V の規格にすれば、
・100ヘルツが1ボルトなら、
・1オクターブ上の200ヘルツは2ボルト、
・2オクターブ上の400ヘルツは3ボルト、
・3オクターブ上の800ヘルツは4ボルトで、
すむってわけね。」
「なるほど、オクターブ関係と CV が正比例になるって事だね。」
「その通り。だけど、そのためにはリニアに入って来た CV を指数関数に変換するためのアンチログって回路が必要になるんだけど、これが結構温度の影響を受けやすくて、設計が難しいみたいなんだよね。」
「いわゆる温度補償ってやつか。」
「そそ、それがいい加減だと、ステージで照明があたると音程が変わっちゃったりするわけね。」
(♻️)
「フミカさんも熱く盛り上がって弾いたら音程下がちゃったとかあったら笑っちゃうよね。」
再び振られたフミカは薄笑いを浮かべながら、
「あ、アハアハ... そうだよね、下がった方が良いのは消費者物価くらいなわけで...」
と、何だかわけがわからない...
(で、次の♻️まで読み飛ばし可にょ)
「それで、ついでにキーボードのピッチを決める半固定ボリュームもやめて、全部を抵抗分圧に変更して回路も単純化しようと思うんだ。」
「ああ、前の押しボタンの後ろにはズラ〜っと半固定ボリューム並べてたけど、分圧用の抵抗で電圧を得ればいいわけだもんね。だけど、その場合はひとつひとつの鍵盤のピッチは、完全に固定になるよね?」
「そそそ、ネットで調べたんだけど、今の鍵盤を中心にした音楽はオクターブを均等に12分割で固定する『12平均律』で出来てるらしいから、キーボードからの CV を取り出すのも、単純な抵抗分圧回路で良いみたいなんだ。」
「あ〜、なるほどね。でもどんな音でも作れるシンセのピッチがオクターブを均等に12分割したような固定した周波数で良いわけ?」
(♻️)
「そうだねえ、フミカどう思う?」
「え? え〜と〜、バッハも『平均律クラヴィーア曲集』なんて有名なの出してるからそれで良い... のかな???」
フミカはほとんど生返事状態だ。
「あ、それは名前だけ聞いた事ある。」
「だとするとバッハじゃない曲は平均律じゃないの?」
「どうなんだろう? 曲によっては平均律じゃないピッチを指定してるのなんてあるのかな?」
「どうなのフミカ?」
(作者注:『平均律じゃないピッチを指定して』、リサは詳しくないので、こういった言い方をしているが、専門的には『音律』という言い方をする)
またしても難問を振られたフミカは、ついに言った。
「あ、あのさ、これ一応、シンセのお話を中心にした『ラノベ』のつもりだしさ。ね、その... 大人の事情で空気読むっていうか... 話を簡単にしないと、お気に入りとかブクマとか減るんで、そこんとこ、ひとつよろしくって事で...」
フミカの究極の意見により会話は終了し、みんなは無事にドーナツ屋を出て帰途についたのであった。




