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それ行けシンセ女子!  作者: MikBug
Day9:7月24日/終業式の帰りに
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⑵ 例のドーナツ屋で

 3人は終業式の帰り、例によってドーナツ屋に立ち寄った。今日は他のクラスの生徒の姿もチラホラと見受けられる。


 テーブルを確保してお気に入りのドーナツを買ってくると、リサが話し始めた。


「こないだの日曜にさ、サエ師匠にドラムの手ほどきを受けたんだ! 凄く難しいような簡単なような...


 片方の手だけだと簡単に出来る事が、両手だと突然できなくなっちゃったり、両手両足が全部一緒に動いちゃって、インディアンのリズムみたいになっちゃったりするの!


 私が『インディアンのリズムみたい!』とか言ったらサエ師匠も『最初はみんなそんなになっちゃうんだ』って言うから安心しちゃったよ!」


 リサは初めての体験をみんなに伝えようと一所懸命だ。


「サエ師匠... ですか?」


「そそそそ、師匠って呼ぶ事にしたの! サエ師匠は凄いんだよ。ドラムだけじゃなくて、バンドの事とか色々教えてもらっちゃったよ。


 バンドとかライブとかって関わる人が多くなるからトラブルのネタも多いんだって。でも、みんなそれを解決しながらやってくんだって。だからこないだの私たちと軽音部長の問題もきっと解決できるからって言ってくれたよ。


 とにかく軽音部長のレイナ様を納得させるようなステージやるのが大前提だって! エアシンセだけは避けねばなりませんぞ! 諸君!」


 リサは力を込めて言った。


「そうか~、なんとか仲直りしたいよねえ。とにかく試験~夏休みと続いちゃうから、会って話しもできないし... サエちゃんの意見を信じて頑張らなきゃね!」


 フミカも少し自信が出てきたようだ。


「でね、セ祭のステージのドラムなんだけど、サエ師匠に画期的な方法を教えてもらったんだよ。マレット、通称毛玉っていう先っぽのポニポニしたスティックを使ってシンバルとか叩くの。


 この方法だと『炎のランナー』バッチリ〜!って感じになるんだ。盛り上がり間違いなしって感じ?!」


 と元気良く言ったリサは、ちょっとトーンダウンして、


「だけど問題がひとつ... やっぱりキーボードは押しボタンだけじゃ細かい演奏ができないでしょ?」

「そうだよねえ、飛び道具としては面白いけど... それにオミちゃん用にも、もう一台いるだろうし...」


「そ、最初は借りて来た電子オルガンを内緒で改造してシンセにつないじゃおうかと思ってたんだけどさ、それって結構大変そうじゃない?


 でも、サエ師匠によると、セ祭はバンドが沢山出るから共用の機材があるんだって。ドラムとかキーボードって、バンド毎に交換すると大変でしょ?


 だからそれを借りて使えばいけそうなのね。」


「なんだ、簡単な事じゃない!」

「ところが、そうでもないんだなあ。LFO の機材はアナログ系、でも共用機材は最近のデジタル系でしょ?」

「何か問題があるんですか?」


「うん、最近のキーボードってコンピューター内蔵で動いてるでしょ?」

「ああ、そうだろうねえ。」


「だけど私たちの作ってるアナログシンセはコンピューターとは無縁な楽器だからさ。


 最近のデジタルキーボードから私たちのシンセを動かすには、Midi インターフェイスっていうデジアナ変換器がいるんだよねえ...


 デジタルのお世話になるのってワタシ的には、はなはだ不本意ではあるんだけど...」


「リサちゃんコンピューター嫌いだもんねえ!」

「そそ! だからさ、この部分だけ市販のキットを使って楽しちゃおうと思って!」


「キット?」

「キットって言うのはねえ、欲しい回路の基板とか部品とか回路図が全部一緒になってるセットの事ね。それ買って解説書通りに組み立てると、目的の回路が完成ってわけなのだ!」

「へ〜! 便利な物があるんだねえ。」


「アキバ行けば、ラジオとか、お風呂センサーのキットとかなら売ってるんだけど、シンセ関連のキットは日本だとないんだよね〜。」

「あ〜ね〜、マニアックだもんねえ。自分で言うのもなんだけど...」

「でねでね、ネットで調べたら、海外のマニアックなメーカーだと、Midi インターフェイスキットもあってさ。しかも1台で何台もアナログシンセがコントロールできちゃう優れもの!」

「いいじゃない! それ使えば。」


「うん、でももうひとつ問題が...」

「まだ問題あり?」


「値段がねえ... 高いのだよ。


 送料も入れると2〜3万円くらいかなあ。部費から出してもらうわけにもいかないし、ちょっとお小遣い投資しても足りないよねえ。


 だけど完成品だと5万円以上するみたいだから、こりゃもう想定の範囲外でしょ?」


「そうだねえ、2万円でもちょ〜っとねえ。」

「そうですわねえ。親に頼み込むというのも悔しいですし...」


「そそそ、でね、サエ師匠曰く『そんならバイトすりゃいいじゃん!』て」

「バイト? 学校的には大丈夫なの? シスターのお説教部屋行きとかヤダヨ〜!」


 フミカがそう言うと、リサは小声で、


「サエ師匠は大丈夫だって言うんだよね。身内の会社でアルバイトしたって公言してる子もいるんだって。サエ師匠なんか荷物運びのバイトして体も鍛えるんだって張り切ってたよ。


 それとさ、シスターのお説教部屋のカト研って、系列男子校と聖書研究会もやってる場所だから、やっぱりお説教なんてウソじゃないかって...」


「まあ! なんて事でしょう! 男子校との研究会だなんて、それは不純異性交遊クラブではないのですか?!」


 オミがまたしても大きな声で言ったので、店内の人の視線がこちらに向いた。


 そろそろこのパターンに慣れて来たフミカは、平静を保って顔を前に突き出し、何もなかったかのように、


「へ〜、女でも肉体労働させてくれる所があるんだ?」


 リサもそれを受けて『不純異性交遊なんて言ったのは誰?』と言った表情で続けた。


「本屋さんの倉庫整理とか色々とあるみたいね。ドラムって物凄く重いから、叩くだけじゃなくて楽器を運ぶパワーも必要なんだ。


 シンバルスタンドを持たせてもらったけど、1枚のシンバルだけでも重いの! あんなのスタンドごと倒れでもしたら被害ひがい甚大じんだいだよ!


 ひっくり返ったシンバルのエッジでギターのケーブルがバッサリなんて事もあるんだって!」


「楽器をやるのも命がけなんですねえ」


 オミは関心しながら、フト思いついたように言った。


「そう言えば... 短期アルバイトの話なら、あるかもしれませんわ。」


 フミカが『へ〜』っと思うと、リサがニヤッとして言った。


「例の?」

「そう『例の』ですわ。」

「え? なになに? なんかあるの?」

「ウン! ちょっと可能性があるから決まるまで待ってね!」

「うんうん、期待して待ってる!」


 バイトでお金が入ればインターフェイスも作れて準備万端そうだし!

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