⑶ ここにも親ヴァカ
開いたドアの外には、紅茶とお菓子をトレイに乗せた女性が立っていた。彼女は部屋に入るなり、弾丸のごとく、しゃべり始めた。
「まあまあ、今日は良くいらっしゃいました! うちのサエちゃんがいつもお世話になって。サエちゃんの新しいお友達って音楽をする人が多いのに、機械をいじる人なんですって?! まあ〜〜まあまあ、頭の良さそうな方!!! 凄いわねえ〜、この頭の中、どうなっちゃってるんでしょ?!」
サエコの母らしき女性は、そう言うとリサの頭をグリグリと撫で始める。どうしたら良いのかと、あっけに取られるリサを物ともせず、彼女は続けた。
「なんですか、うちのサエコは男まさりに太鼓を叩くし、力仕事のアルバイトはするしで『折角お嬢さんの多いミッションスクールに入れたのに』って、家族もため息をついてるんですのよ〜。なんでしょうかねえ、最近は女の子でも、こんな男まさりな方も増えてしまったんでしょうかしら〜?」
彼女はサエコの方を向くと続けた。
「ねえねえ、サエちゃん! こんな良いお友達が来てくださったんだから、あなた男みたいな言葉使いしては、いけませんよ。本当にこの娘ったら小さい頃はおチビさんで、体も弱くてねえ。あ、でも根は優しくて大人しいんですのよ! いつの間に...」
サエコは延々と続きそうな言葉を遮った。
「ハイハイハイハイ、母さんそこまでそこまで! 今、ドラムの練習してるんだから出た出た!」
「ハイハイ、分かりましたよ。それじゃリサさん、ごゆっくりしていらしてくださいね。」
彼女がドアから出ると、部屋はシ〜ンと静寂に包まれた…
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台風一過の静けさの中、リサはジトッとした目つきで
「もしかして、サエちゃんっちってば〜...」
と、全部言う間もなくサエコが遮るように言った。
「わ〜った、ワ〜ッタ、分かってますって! みなまで言うなって、その通り! うちは親ヴァカだっての!」
「はぁ〜〜〜、ま、うちの学校は親バカ多いかも〜... オミんちもさあ、結構なもんだよ。」
「ああ、彼女んとこは見るからにそんな雰囲気だよな。」
「でさでさ、それはそれとして、今お母さんが言ってたけどサエちゃんってアルバイトしてんの? 学校ってバイト禁止だよねえ?」
「表向きはダメってなってるけど、みんな結構内緒でやってるんでね? なんか良家の子女が多いみたいだから『親戚の会社で机の上を拭きました! 大変な労働でしたわ』なんて甘っちょろい事言ってるお嬢様もいるみたいだけどな!」
「へ〜、で、サエちゃんは力仕事のアルバイトしてるわけ?」
「まっねっ。ワタシの場合は本屋の倉庫で荷物運びね。親は嘆いてるけど、打楽器は体力勝負だからな! このシンバルスタンドひとつにしたって、ほれこの重さ!」
サエコは、そう言いながら片手でスタンドを傾けた。リサも真似してみると、
「ウ、こりゃ重いや! 確かに体力必須だね!」
「だろ! おまけに、貰ったお金でスタジオ代がまかなえて、一石二鳥! 『バンドやってる奴はバイトで稼いだ金を楽器とリハスタに注ぎ込む』これ基本! で、そっちはどうなのよ、シンセの出来具合は?」
「あ〜、そっちはねえ、回路は良いとして、鍵盤をどうしようか悩んでるんだ。」
「鍵盤? ステージは、キーボードもドラムも共用機材でやんだけど... それ借りるんじゃダメなわけ?」
「う~ん、私たちが作ってるアナログシンセは今のキーボードと規格が違うんだよねえ。つなごうとするとコンピューターを使ったインターフェイスを作らなきゃならなくてさ! そうすると、ホラ〜、アナログだけにこだわりたい私としては悔しいわけですぞ〜! グ、グヤジイ〜!って...」
「こだわってるし! ヘヴィメタ推奨の親父さんの事言えないじゃん!」
サエコに笑いながら指摘され、
「あ、ほんとだ確かに私もこだわってるよねえ。」
リサは苦笑いした。
「ま、少しは妥協もせんとね。」
「だねえ。じゃあ私たちもアルバイトしてインターフェイスを手に入れようかねえ... バレてシスターのお説教部屋行きにならないように気をつけないといけないけどね!」
「シスターのお説教部屋って、よくみんな言うけどさあ、それカトリック研究会の部屋の事だろ? カト研って系列校の男子と交流があったりするから、それ目当てでカト研入ってる奴もいるじゃん。むしろカト研入ってる奴の方がお説教されそうじゃね?」
「え? そうなの? そりゃ初耳だよ。サエちゃんってドラム以外にも色々知ってて凄いね~! これからは師匠と呼ばせていただくよ!」
「やめてくれ〜! そんな呼び名!」
と、サエコは叫ぶのだった。




