⑶ ニューハーフ的なシンセの人
オミパパが困っているのを見たフミカは話題を変えてあげようと思い、クラブの音楽で思った事を、ちょっとうつむき加減に口をすぼめて話し出した。
「でも、ああいうトランスっていうのがシンセの音楽なんですか? ステージを見てたんですけど、誰も弾いてないんですよ〜!」
「弾いてない?」
「ええ、ボリュームを動かしたり、ボタンを押してるだけだったり... あれがシンセの音楽なんでしょうか?」
「ああ、そういう事ね〜。最近のシンセは、みんなコンピューターに演奏させちゃうから、シンセの鍵盤弾くの忘れちゃってるよね。」
「ハァ〜、なるほど〜、コンピューターで演奏ねぇ... そういのがシンセの音楽ですか? こないだのクラブの音楽聞いたら、私みたいに演奏する人間なんていらないんじゃない? って話になっちゃったんですけど〜...」
「そんな事ないでしょ。だって昔はコンピューターなんて無かったんだから、シンセだって手で弾くしかなかったわけだしさあ。」
「そりゃそうですよねえ。」
「今はコンピューター使い過ぎで、みんな弾くのを忘れちゃったんじゃない?」
「フ〜〜〜ン...」
「フーちゃんってクラシックのピアノ弾けるんでしょ? だったらシンセ弾けばいいじゃない! 弾ける人が演奏するのって、今じゃかえって貴重で新鮮なんじゃないの? それってウリでしょ!?」
「なるほど〜! そういう事かも!」
オミパパの意見に、フミカは少し自信が戻って来た。
「オーちゃんも少しは弾けるから、二人がシンセ弾いて、昔のシンセの曲とかコピーしたら? それなら女子高生的にも大丈夫なんじゃない? リズムが入ってもトランスみたいに爆音じゃないしさ。」
「そうですよねえ、学校なんかで爆音のトランスできるわけないし。」
「爆音じゃないトランスって、トランス状態になれなそうだしね。」
「確かに〜!」
「それで、昔のシンセの曲ってどんなのがあるんですか?」
「そりゃクラシックからロックやポップスまで色々あるよ。世界初のシンセの大ヒットは『スイッチト・オン・バッハ』。最初はクラシックをシンセで演奏するのが多くて、その後でロックやポップスにも使われるようになったんで、やれそうな曲は相当あるんじゃない?」
<⭕♫YouTube によるサウンド♫⭕:『スイッチト・オン・バッハ』を作った、ウェンディ(ウォルター)カルロスの「時計仕掛けのオレンジ」のサントラから。シンセでベートーベンの「喜びの歌」を演奏している。メインのボーカルもシンセの合成音>
https://youtu.be/lFimuAwCE0A
「へ〜、意外! 最初はクラシックだったんだ、ポップスじゃなくて...」
「『スイッチト・オン・バッハ』はクラシックなのにポップスのチャートに入って話題になったし、それを作ったウォルター・カーロスが性転換して女になっちゃってまた話題になったんだよね。」
“ギクッ! またしてもディープな話題? シンセ使いってそんな人ばっか?”
フミカが困った顔をしているとリサが、
「それってクラシック界の『はるな愛』的な?」
と笑った。
“なるほど、こういう話題って軽くかわすのが大人なのかも... 勉強になるなあ...”
「言葉で話しててもなんだから、居間で音を聞いてみようか!」
オミパパの勧めで、みんな古いシンセの曲を聞いてみる事になった。




