⑴ ちょとハイソ?
日曜の昼過ぎ、フミカは駅の改札でリサと待ち合わせ、オミの家へと向かった。
“オミパパってホントにコスプレオヤジなの? 大丈夫かなあ、そんな人にシンセの話とか聞いちゃって... ホントはオミちゃんってお嬢様じゃないとか? コスプレ+お嬢様の親子って、どんな家に住んでるの?”
あれこれ思いをめぐらせながらリサの後に続くフミカ...
「オミちゃんちって遠いの?」
「いんや、駅の裏手のマンションだからすぐだよ〜。」
“なぁんだ! もしかして噴水でもある大邸宅に住んでる令嬢? とか思ってたけど、やっぱ違うのかぁ!”
フミカがそんな事を考えていると、二人は1分ほどで、小高い丘の上に建つマンションの前に着いた。
「こっちこっち。」
リサはそう言うと、敷地の階段を上って行く。オートロックの玄関を入ると石造りの広いエントランスホールの右に管理人室、左にガラスで仕切られた中庭がある。そこだけでも夫婦と子供二人の標準世帯が3家族は充分に住めそう...
どうやらその奥にエレベーターがあるらしい。二人は中庭を左に見ながら、静まり返ったホールの奥に向かって歩き、エレベーターに乗った。
“ふ、ふ〜ん、やっぱちょっと高級っぽいからオミちゃんってば中流お嬢様?”
フミカはちょっと感心していると、
「ここの一番上の階なんだけど、ちょっと景色が良いんだよね。」
と、リサはボタンを押し、エレベーターは5階に到着した。
ドアが開くと、ガランとした6畳ほどのスペースに、背の高い木が植わった植木鉢が置いてある。左右には非常口以外、正面のドアしかない。
「え? この5階ってオミちゃんちだけなの?」
「そそそ、ペントハウスっていうんだっけ? 最上階はオミんちだけ。確かエントランスの反対側に、もうひとつエレベーターがあって、そっち側も5階は一世帯だけになってるらしいよ。」
話に聞いた事はあったがペントハウスというのは、こういうものらしい... フミカの中で、オミは中流の上クラスに0.5だけレベルアップした。
ーーーーーーーーーーーーーーー
『☝️ ピンポーン』
ドアチャイムを鳴らすとオミが、
「ようこそ、いっらしゃいませ!」
と出てきた。どうやらクラブでの幽体離脱状態からは完全復帰したようだ。
「さあ、どうぞお入りになって。」
言われるまま中に入ると、水の流れる音がする。フミカは、
“ん? まさかね?!”
と思って見ると、玄関ホールの窓の外に噴水がチャポチャポと水を吹き上げていた。フミカは驚きの声をあげた。
「おお〜、マンションなのに噴水がある〜!」
「ああ、お父様が『水の流れる音が好き』と、取り付けたんです。さあさあ、中へどうぞ、今日はお天気も良いですし、テラスで冷たい物でも飲みながらお話ししましょう。『あ、小澤さ~ん、テラスに飲み物を3つお願いしま〜す。』」
オミが声をかけると、どこからか『は〜い』という返事が響いて来たような気がした。
“っつうか、ここマンションだよね?”
オミに案内されて出たテラスは標準世帯なら二家族くらいは住めそうに広い。そこを囲うように配置された花壇にはツツジが植えられ、丘の上の最上階はまるで空中庭園だ...
「随分景色がいいねえ...」
さっきリサがエレベーターで言っていた事を思い出しながら、フミカが夢見心地に言った。
「そうですね、駅前なんですが建物は丘の上に建っていますし、ここの後ろは神社の森なので空が広く感じられるんですよ。」
「なぁ〜んか優雅だよねえ水の音って、ラベルの『水の戯れ』とか思い出すなあ。」
「でも噴水って現実は大変ですよ、ホコリで水が詰まるし、風で水が吹き飛ばされてテラスが水浸しになるんです、そのたびにお父様がズブ濡れになってお掃除するんです!」
オミの実務的な話でフミカは少し現実に戻れた気がした。
フミカ達がテラス中央にあるパラソル付きテーブルの白い椅子に腰掛けると、さっき小澤さんと呼んでいたらしき女性が、
「いらっしゃいませ、どうぞこちらを...」
と、3人にアイスコーヒーを差し出した。フミカは思わず、
「いやいや、私のような者にこのような物をいただけるなど勿体無い事でございます。」
と頭を下げながら小声で言ってしまい、オミに、
「どうしたんです? 何か変でしたか?」
と聞かれ、慌てて、
「いや、そんな事ないよ、大丈夫、いや、ほんと大丈夫ですから...」
と力なく言った。彼女の心の中でオミはさらに3ポイントレベルアップして上流お嬢様に昇格したのだった。




