⑴ 駅前にて
土曜日の午後、フミカは JR を秋葉原駅で降り、リサの言った電気街口へ急いでいた。彼女も親と一緒に何度となくアキバに来てはいるが、いつも電化製品を買いに来るだけ。噂に聞いていた部品屋さんのアーケード、リサやオミが言うダンジョンのような場所というのは行った事がなかった。
“本当に洞窟? 20世紀中頃って映画の『Always』みたいな?”
と、期待に体中の神経がザワついているのが良くわかる。少し早めに改札に到着したフミカは広告の表示された柱の前に立たずみ、色々と想像をしながら人の流れを見つめていた。すると突然、
「あの、写真いいですか?」
と言う声が...
「え?」
見るとリュックを背負った小太りな青年がカメラを持って立っている。フミカはとっさに、
「あ、ハイ...」
と答えてしまった。青年はフミカにカメラを向けるとパシャパシャと2~3枚の写真を撮り、
「ありがとうございました。」
と頭を下げ行ってしまった。フミカが、呆気に取られていると後ろから、
「おそよう! 待った?」
とリサの声。
「ううん、今来たとこ。でさでさ、聞いて聞いて! 今さ、なんか写真撮られたの。なに? 私、雑誌とかに載っちゃう?」
少し頬を上気させて言うフミカにリサは冷やかしたような声で、
「それって小太りで帽子かぶってリュックしょった系の人では〜?」
「そうそう! なんで知ってるの? 有名な人?」
リサは笑いながら、
「ウンウン、確かにアキバだと有名かも。いわゆるカメコってやつだよ。」
「カメコ?」
「カメラマニア小僧でカメコ。アイドルとか撮ってるアマチュアの人とかだよ。で撮影されちゃった?」
「うん、ダメだった?」
フミカは語尾を気味に恐る恐る聞いた。
「ま、純粋にアキバの景色撮ってる人とか色々だろうけど、被写体としてアキバ系に認められたから良しとしといたら? 美少女認定されたのかもよ~?! ま、私なら断るけどね~!」
リサは目をクリクリさせて言ったがフミカは心配になり、
「だ、大丈夫かな? それが元で怪しい職業にスカウトされちゃったりとか? 学校に通報されてシスターのお説教部屋にご招待されちゃったりとか...」
と不安気に聞いた。リサは笑いながら、
「ないない! だいたいさ〜、シスターのお説教部屋って本当? 部屋の名称カトリック研究会室、通称カトケン部屋だし生活指導室って別にあるし。」
「うんうん」
「『清く正しくない生徒が聖書読まされた』とか『マリア像に謝罪のお祈り1時間』とか、ただの校内伝説じゃないの? 本当にあそこに呼び出されたって聞いた事ないし、それに写真撮られて呼び出されるんなら、もう一人重罪人が... あ、ほら来た来た!」
フミカはリサの目線の先を見た。そこには改札の反対方向から何か大きめの物体がフワフワ、ワサワサと宙を舞うように近づいて来る。
その物体は、
「リサさ~ん! フミカさ~ん! 遅くなりました~!」
とまるでオミのような声を発っしながら、こちらに接近して来るではないか!
フミカが目をパチパチさせて物体を良~く見ると、それはフワフワな衣装に身を包んだオミその人だった。
「申し訳ありません、少々遅れてしまいましたわ。」
少し他人顔のフミカが聞いた。
「あの~、なんて言うか、その... ゴージャスっていうか、あったかそうな...」
「オミはロリータ系好きだよね。」
「ゴスロリとかいう?」
「少々違いますわ、ゴスロリは黒主体ですが私のは白やピンク系ですし...」
どうやら、これはこれで深い世界らしい。でも慣れると結構可愛いかも!
「へ~、カワイイカワイイ。不思議の国のアリス! カメコに狙われそう...」
フミカはコソッと、
「ね、リサちゃん、言葉使い合ってる?」
と聞くと、
「ダイジョブダイジョブ。」
と、リサは OK サインを出しつつ、
「オミんちはパパもこういうの好きだよね。」
“エ? オミ家は一族これ?”
「そうですわね。父も先日、魔法使いの出で立ちで電車に乗ってしまい、少々目立ってしまったようでした。」
“って、コスプレ親父? しかも電車ですと? オミちゃんちってどういう家庭ですかあ? 良家の子女じゃないんだっけ? もしかして LFO って生活全般が濃い系な人の集まり?”
心配顔のフミカを物ともせずリサは右手を上げ歩き出した。
「サササ、行きますぞ〜! フミカのアキバダンジョン初体験! あ、オミパパにも魔法使いのカッコで来てもらえば良かったね!」
「そうですわ! 今度お父様も誘ってみましょう。」
とオミが続く。フミカは、
“や~め~て~!”
と心の中で叫びつつ、二人の後に続くのだった。




