竜は人の子を育てる
俺はアルフ、今日16歳の成人を迎えた。
家族構成は義母と俺、義母の甥のサルタの3人暮らしだ。義母は綺麗な白銀色の髪に金の瞳の美人で、人一人育てたと思わないほど若々しいい。俺が小さい時から全然変わっていない。20代前半に見えるその若々しい容姿でありながら、荒くれ者の多いギルドで働き最高ランクを誇る。その美貌から『ギルドの女神』と言われている。サルタは俺の2つ下の14歳で、3年前から一緒に暮らしているんだ。なんでも社会勉強という事で家を出て来たという。髪は緑で瞳は義母と同じ金色。中々の美少年だ。
俺の容姿は少し癖のある金髪に青い瞳の中々整った顔立ちだと思う、が、義母とサルタに毎日会う身としては平凡と言える。
「アルフお誕生日おめでとう。今日で成人ね」
「アルフ兄おめでとう」
「ありがとう2人共。でも成人した実感は沸かないな」
「そういうものでしょ。いきなり実感は沸かないわ、それより今日は学園を休んでお城に行きましょう」
「は? 城って、……待ってよ義母さん引っ張らないで」
何で成人の実感沸かないって言ったら城に連れて行かれるんだよ。義母は意外と強引でマイペース、大雑把な性格をしている。サルタがキョトンとしながら着いてくる。
今でこそ王都の一等地に家を構えているが、昔は辺境の村で生活していた。この世界では名を授けるというのは魔力が必要で魔力が少ない平民は2文字の名前が多い。血筋でも魔力は受け継がれるのだが、殆どは貴族が占める。名前を授ける洗礼をする時、魔力の塊である魔石を使う事で魔力を補い名前を長くする事ができるが、洗礼に耐える程魔力を有している魔石は高く、貴族や豪商、高位のギルド員の子供にしか使えない。俺の場合実は最後に当て嵌まる様で当て嵌まらないのだ。何故かというと俺を引き取った時義母はまだギルドに加入しておらず、ただの旅人であったからだ。
生まれたての俺は両親と共に魔物に襲われていて、通りがかった義母が何とか助けられたのが俺だけだったそうだ。
その後、辺境の村に住みつき、まだまだ赤子だった俺を背負いながらギルドの依頼をこなして行ったとか。俺が昔辺境の村で育っていた時、村人やその村の支部のギルドマスターが教えてくれた。そんな中成長した俺に勉強まで教えてくれたんだ。
その村には青空教室しかなく、俺の成長の為というより母の高ランク試験の為、ギルドマスターが辺境伯の住む都市へ推薦状を書いてくれた。その町で俺は学校に通い義母は試験を受け高ランクになった。
この国では学校は初等学校と高等学校に分かれている。初等学校は平民が通う学校でほぼ無料で開かれており、高等学校は貴族と優秀な平民が通う。10歳から13歳が初等学校、14歳から16歳が高等学校になる。
俺が10歳の夏季休暇の時義母が依頼で辺境伯の息子の戦闘指南の依頼を受けた。なんと義母は俺を一緒に連れて行ったのだ。当時は分からなかったが今では分かる、良く俺は摘まみ出されなかったな。その為か、辺境伯の息子で同じ年のヴォルフ様と友達になった。
俺はこの時初めて母の強さを知った。村でも俺に武術を教えてくれたりしたし、強い魔物を狩ったりしていたのは知っていたが、どれくらい強いのかは知らなかった。この辺境伯の依頼で辺境伯家の騎士と手合わせしていたが、全て義母の勝ちだった。義母は様々な体術や剣術等武器の流派を知っており、今では使う人も少ない古代の流派すら知っていたのだ。この事で辺境伯は義母を気に入り何時でも屋敷に遊びに来てくれと言ってくれた。俺もこの時にはすっかりヴォルフ様と仲良くなり俺も何時でも遊びに来てくれて良いと言われたのだ。
この後、ヴォルフ様が勉強を一緒にしないかと誘われ一緒に勉強するようになった。使用人の人達にも可愛がられ、礼義作法も教えてくれた。更に王都の高等学園に入る時俺に推薦状まで書いてくれたのだ。
その学園を休んで城に行くとはどういう事だ。最高ランク者として城に出入りを許されている義母と俺は違うんだぞ。
俺の意見や恐縮は一切お構いなしにサクサク王城の謁見しつまで連れて行かれた。
謁見の間には多くの騎士と数人の大臣だと思う人が居た。ズンズン進み王の前で膝を着くと顔を上げるように言われ、俺達は顔を上げた。
「リア今回はどうしたと……」
リアとは義母の名前だ、だが王様の声が止まったのはどういう事だ。辺りを見渡すと大臣達が驚愕の顔になって、目線は王様と俺を行ったり来たりしている。王様に視線を向けると王様も驚愕の顔になっていた。王様の顔立ちは何処かで見た事ある様な顔立ちだ、髪は少し白髪の交じった金髪で、瞳は青い。うん、色まで見覚えがある。俺の視線は1人ニコニコしている義母に向かった。というよりこの謁見の間に居る人間の視線が義母に刺さるが、涼しい顔でニコニコしている。
「……リア説明してくれるのだろうな、その子供の事を」
「あら私の息子よ」
ニコニコと効果音が出そうなくらい笑顔の張り付いた義母と、話が噛み合わず額の青筋を浮かべる王様。
「そうそう、これを見せに来たのよ」
そう言ってアイテムボックスの魔法で小さな箱を取り出すと、その箱を王様に差し出した。それを見て王様自ら王座から立つと、ひったくる様に義母の手からその小箱を奪い取った。そしてその小箱を開けると小さな、けれど豪華な腕輪を取り出す。
「『この腕輪の主こそ余フランツの孫アルゼンである』これはどういう事だリア、この腕輪の通りなら、いやその顔立ちは、貴様の息子は俺の甥に当たるのだが」
「ええそうよ、私の育てた子よ」
うん、話が通じてない。王様が小箱と腕輪を握りプルプル震えている。大臣達も同様だ。
「何故、もっと早くに連れて来ない!」
とうとう堪忍袋の緒が切れたのか怒鳴る王様に、うんうんと首を振る大臣達。その中で未だにニコニコしている義母、まさにカオスだった。
「あら、そう頼まれたのよ」
「何?!」
「グレンダが息を引き取る時に、この事を言うのはこの子が成人してからにしてくれって。それまでは名前を変え、私の子として育てて欲しいと」
この時初めて義母の顔が真顔に戻った。そうして「”結界“」と、結界を発動する。
ドゴン! と謁見の間の壁に穴が開く。
「何奴だ!」
騎士達が王様の元に駆け寄り剣を抜く、一部の騎士達は穴の開いた部分に駆け寄り剣を抜き威嚇するように声を発した。
「フハハハ、マゼンダの王グラウトである。この国を貰いに来た、やれ」
「グルルオオ!」
穴の間から赤い灰赤色の鱗を持った竜がブレスを発射した。
だが義母の張った結界に阻まれ被害は一つも無かった。
「何?! 竜のブレスを止めるだと!」
「守護竜が他国を攻めるとは何事ですか?!」
マゼンダ王の言葉に被せる様に声を発したのは険しい顔をした義母だった。守護竜とは竜を国の守護獣とする事だ。竜に気にいられた王が、王族ひいては国を竜に守ってもらうのだ。そんな中でマゼンダ国の2代目の守護竜は念話を発して来た。
『たかが人間が我がブレスを防ぐとは……何?!』
「守護竜でありながら他国を攻め、人間を『たかが』じゃと恥をしれ!」
話し方の変わった義母は光り輝く魔力を発し、それにマゼンダの守護竜が驚愕の目を向ける。光輝きながら義母は穴の開いた城壁から外へ飛び出して行った。
そこに現れたのは。
「……白銀の竜、聖竜リアネアージュなのか?」
誰かがポツリと呟いた、いや全員かもしれない。
『小童が舐めた事をしてくれる。竜族の恥めが!』
そう念話が辺りに響くと白いブレスを放った。
「ひ?!」
そう悲鳴を上げたのはマゼンダ王だ。
各の違いを見せつける様に、たった1回のブレスでマゼンダ国の守護竜は下へ落ちて行った。それ途中で掴むと聖竜リアネアージュは此方に向き直った。その顔は少し悲しげであった。
『アルフお別れの様じゃ。本当はもっと一緒に生活したかったが、この姿になれば人は妾を今までの様には接せぬ』
「義母さんなのか……」
『そうじゃ、黙っていて済まぬな』
「義母さん、言葉遣いが変だ。もっと何時もらしくしろよ」
悲しそうにする竜になった義母に分かれが近い事を悟るしかない。もう一緒に暮らす事はできないだろう。当たり前だ、竜だと、いや聖竜リアネアージュだとばれてしまったのだ。今まで通りの生活などでき様がない。聖竜リアネアージュ、過去多くの人をその力で救った竜だ。
俺の何時も通りの言葉に始めて嬉しそうな雰囲気になると、楽しそうに念話を発して来た。
『私の愛しい子アルフ、私をまだ義母呼んでくれるのね。貴方の成人のお祝いに名前をあげるわ、これからはアルフレット名乗りなさい』
「?! 6文字の名前なんて貰えないよ」
『私の子という証よ、貰ってちょうだい。ハヤサテ王、アルフレットを宜しくね。マゼンダ王はそこに置いておくわね』
「義母さん名前ありがとう。これでお別れなんかにしない、今度は俺から会いに行くから待っていてくれ」
『ええ。ええ、何時までも待っているは私の愛しい子。それではね元気にしていてね。サルタリージェいきますよ』
そう言うと義母は翼をはためかせ、足にマゼンダの守護竜を持ちながら悠々と去っていった。
「リア、アルフレットは任せろ」
王様のポツリとした呟きに義母は一度此方を向いた。
「アルフレット兄待ってるから」
「ああ、待っててくれ」
そう言うとサルタは緑色の竜になって飛び立って行った。
「絶対会いに行くからな」
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