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5章

現実とはズレた感覚にすぐ夢だとわかる。

昔読んだ本の影響した世界観の再現。


目の前にいる男にオレは組み伏せられている。



「ずっとお前の事が好きだったんだ。」



気持ち悪い。



「お前の事しか頭にない。」



吐き気がする言葉……

遠目に見れば男同士が密着した姿に映るだろう。



「放せ……」



そうやって小さい声でした否定出来ない夢の中の自分に腹が立ってくる。

そうだ、私は絶対こうならない。



”本当に?”



当たり前だ、だってオレは男なんだから。



「愛している。」


「!?」



一瞬だけ、男の顔が将大の顔に見えた。



アリエナイ



そう、ありえない。 だってこれは……



――夢なんだから。






ふわふわとした感覚の中、風景だけが移り変わっていく。

あぁ、ワタシはまた夢を見ているのだろう。


目の前にいる女性は夢の中の私に笑顔で語りかけてきている。



「妾はお前が好きじゃ。」



自分には勿体無い言葉だ。



「ずっと妾の傍にいておくれ。」



私は穢れているから、本当はこの方の傍にいてはいけない。

頭では分かっていても、そう行動出来ない。


何故ならば……



「!?」



自分でも無意識に、その女性へとキスをしていた。

なんでワタシ、だってワタシは……女の子のはずなのに。



”本当に?”



どうなんだろ、自分でも分からない。


一瞬だけ、女性の顔が東子の顔に見えた。



「何事か?」



後ろから一人の男性が現れる。

その男性の顔は主先生とそっくりだった。



あぁ、やっぱりこれは夢なんだ……


まるて揺れ動く天秤。

ワタシは男? それとも女?






「準備できたか?」


「あとちょっと~」



部屋の中にいる日織がそう答えた。


今日は日織が東子の家に遊びに行く日だ。

一人だとどうしても不安だからと、途中まで一緒についていく事になった。



「お待たせ。」



おめかしした日織が部屋から出てきた。

顔をよく観察すると軽く化粧もしているようだった。



「お前、化粧なんかしたら一緒にいる主に怒られるんじゃないか?」


「た、多分大丈夫だよ。主先生ってそういうのニブそうだし。」



そう言って笑った誤魔化した。

まぁ、大丈夫か……



「忘れ物は無いか?」


「葉月じゃないんだから、大丈夫だよ。」


「なんだって!?」



オレってそんな抜けてるか……?

頭に手を当てて考えてみるが特に思い当たらない。



「葉月……?」


「な、なんでもない!行くぞ!」



そう言って、オレは日織の手を引いて玄関に向かった。






バスに乗り込み席に座る。



「日織、気づいてるか?」



耳元で周りに聞こえない声で話しかける。

日織は黙って頷いた。


バス停に向かっている途中から誰かがついてきている。

とりあえずは、警戒しつつ気づいていないフリをしておこう。


オレは安心させるように日織の手を強く握った。


日織は一瞬驚いたようだったが、すぐに手を握り返してくれた。



しかし、一体誰だろうか?

ストーカー?


いや、確かに日織はモテるが……

その手の色恋話も聞いていないし、気のせいという可能性もある。



―――


――




そのまま動きも無く、バスは目的地へと辿りついた。


しかし、気配はバスを降りてからもついて来ていた。



「よし、ここまでならいいだろ?」


「う、うん。 ありがと葉月。」



そう言ってオレは東子の家に向かう日織を見送った。

気配もそれに合わせて動いているように感じた。

やはりか……



「なぁ、出て来いよ。」


びくり! っと動きが止まるのが分かる。



「ずっとついてきてただろ? いい加減顔出せよ。」



日織はオレが守る、絶対にだ。



「わ、悪かったからそんなに怒るなよ。」



意外にも、出てきたのは将大だった。

いや、むしろ予想の範囲内だろうか?

可能性としてはありえたが、こんな事をする奴だとは思っていなかったのだが……



「お前、何考えてんだ? あまり悪ふざけがひどいとシメるぞ?」


「だから怒るなって! たまたま見かけて気になっただけなんだって。」



たまたまなら何故声をかけなかった。

わざわざ気配を押し殺して、ストーカーみたいに。



「……」


「おぉ、こわっ。 でもお前も悪いんだぞ? いつまで立っても日織ちゃんを紹介してくれないから……」


「お前みたいな女たらしには、絶対に日織には紹介したくないね!」



もちろんそれ以外にも理由はあるが……



「なんだよ! 俺の気持ちも知らないでさ!」


「あん?」


「……なんだよ。」



呟くように言った将大の言葉。



「聞こえねぇよ!」


「だから、好きなんだよ! お前が!」



スキ? 好き? 好きってなんだ?


スキってアイシテル?

ライク?ラヴ?



”愛している”



朝の夢と重なる……


混乱した頭をなんとか落ち着かせようと努力する。



「冗談だろ?」


「本気だ。」


「お前ホモだったのかよ……」



衝撃の事実に頭がついてこない。

今まで一緒にいて、そんな感じは無かったはずだが。



「俺さ、気づいちまったんだよ。 お前と日織ちゃんってそっくりだろ?」


「あぁ……」


「だからさ、お前でもいいんじゃないかって。」



ふざけてるのか?

つまりオレは日織の変わりって事か?



「冗談じゃねぇ!」


「そ、それにさ! お前たまに妙に色っぽいしさ!」


「近づくな! 気持ち悪い!」



こっちに近寄る将大から逃げるように距離を取る。

しかし、このまま逃げても日織を危険に晒してしまうのではと考えてしまう。

ここは少しでも時間を稼ぐべきなのか。


しかし、どうしても朝の夢が今の現状と重なってしまう。



”愛している”



その言葉が麻酔のようにオレの脳を麻痺させてくる。



「ぁ……」



背中がブロックの塀にぶつかる。

しまった……


その瞬間を逃さず、将大はオレの両肩を掴んできた。



「捕まえたぞ……」






ピンポーン



呼び鈴を鳴らすと、主先生が玄関の扉を開けて迎え入れてくれた。



「お前、傘は持ってこなかったのか?」


「あれ、今日雨降るんですか?」


そういえば、朝に天気予報を見るの忘れたな……

洗濯物は大丈夫かな、後で葉月に連絡しておこう。



「やれやれ、帰りは俺のを持っていくといい。」


「ありがとう、先生。」



笑顔で感謝すると、主先生は顔を赤らめてそっぽを向いた。



「いらっしゃい!」



リビングに案内されると、ソファーに座っていた東子が立ち上がった。

流石に一軒家だけあってリビングも広い。



「えへへ、来ちゃった。」


「俺はちょっと買い物行ってくるから、二人で大人しくしてるんだぞ?」



そう言って主先生は家から出て行った。


あー、こうなると二人っきりか。

そう考えると変に意識してしまう。



「先輩? 少しお顔が赤いような?」


「き、気のせいよ!」


「そっかぁ……」



不思議そうにこっちを見ながら首を傾げた。



「そうだ!」



急に東子はワタシの手を引いて歩き出した。


そのままついて行くと、どうやら彼女の部屋らしき場所についた。



「どうぞどうぞ♪」


「お邪魔します。」



中は年頃の女子らしく可愛い小物が置かれ、綺麗に片づけられていた。



「あ、このクマのぬいぐるみ可愛い。」


「先輩もやっぱりそういうのが好きなんですね♪」



そう言われると、急に恥ずかしくなった。

つい体が反応してしまったのだから仕方ない。



「えいっ♪」


「えっ?」



東子はスキを狙ったように、ワタシをそのままベッドに押し倒した。



「捕まえた、先輩。」


「東子ちゃん……?」



どう言う事? いまいち状況が呑み込めない。

そもそもなんでこんな状況に……



「兄さんには、絶対渡さないから。」



ちゅっ……



どういう意味? という言葉は東子のキスで止められてしまった。



”ずっと妾の傍にいておくれ”



朝の夢と重なる。



違う、ワタシは……






「捕まえたぞ……」



非常にまずい。

どうにか切り抜けなければ……



「放せ――っ!」



まだ自由に動く足で、弁慶の泣き所を思いっきり蹴る。

将大はそのまま態勢を崩して背中から倒れこんだ。


オレもバランスを崩すようにして将大の上に倒れこんでしまった。



「っっ……」



ともあれ、これで自由になったわけだしさっさと逃げるべきか。

日織も家に着いているだろう。



「ぁ……」



自分でも寒気がする甘い吐息が漏れる。



「なんだよ、これ。」



再び胸部に慣れない快感が襲う。

よく見ると、将大の両手が私の胸を掴んでいた。



「おい、葉月お前……」



”女、だったのか”

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