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3章

――パシャッ


一人だけの部屋にカメラの音が響く。

ワタシはいつも通りその写真をSNSに投稿した。



”クォリティパネェ!”


”すげぇ!”


”衣装着た織ちゃんはよ!”



すぐに衣装への感想が送られてくる。

今回作ったのは退魔師綺羅のコス衣装だ。

ちなみにしきはワタシのネットでの名前だ。


感想を見る限り、今回も高評価だ。

今日で仕上げて来週には撮影かな。



この瞬間が一番充実している……まぁ、今だけだけど。

元々、人とは接するのが苦手なワタシだからこその趣味の一つだ。

他にはネトゲに勤しむくらいだ。



「葉月、今日のお昼は何食べる?」



返事はない。

あ、そうか……今日は将大と繁華街に行くって言ってたっけ。


よくもまぁあんな人の多い所に行ける。

ワタシなら5分も持たずに吐きそうだ……



「さて、一人なら適当にお昼食べて作業再開しよっと。」






大勢の人がすれ違っていく。

あちこちからは様々な雑音を耳が拾う。



「おい、どうした?」


「あ?」



正直失敗だ。

折角の休日を、こんな無駄な事に使わなければならないとは……

あぁ、めんどくせぇ。



「そんな怖い顔してると女の子も逃げてくぞ?」


「大きなお世話だ。」



オレはすぐ近くにある自販機に近づき、財布を取りだした。


――やっべ、日織から金もらうの忘れた。


自分の財布の中身を確認すると100円玉すら入っていなかった。

不思議に思ったのか、将大がこちらに近づいてきた。



「どうした?」


「いや、金無くてさ。」



心配して来た将大に苦笑いで返した。



「坊や、お金ないの?」



急に声をかけてきたのは茶髪の女二人組だった。


「……なんでもねぇよ。」



この手の相手に絡まれるのは面倒だ。

オレは適当にあしらうことに決めた。



「またお前はそんな!」


「なんだよ?」



その態度に将大が怒り出した。

正直そこで怒り出す意味が分からないが……



「喧嘩は良くないわよ坊や達。」



そう言うと、女はオレの腕をつかんできた。

思った以上に強い力に驚いた。

横目で見ると、将大は自分からもう一人の女について行こうとしていた。



「なんだよ!」


「意外と華奢な体なのね。」



この一言でムカっときた。

普段から筋トレをして体の鍛錬は怠ってはいない。

自分のコンプレックスである女性の体……

それを克服するための鍛錬だ。

それなのに――



「さあ、行くわよ坊や。」



なんで女にすら負けているんだオレは――!



「何やってる!」



聞き覚えのある声がする。

――誰だったっけ?



「げ!センコーかよ!」



将大のその言葉でやっと誰なのか気づいた。

安心感からか、足の力が抜けて座り込んでしまった。






うーん、それにしてもどうしようか。


裁縫の手を止め、一人考えにふける。

勿論、どうするかとは東子ちゃんの事である。



”なら、今度家に遊びに来て下さいね♪”



今更約束を破るわけにもいかない。

しかし、何かトラブルが起きれば葉月にも迷惑がかかるかもしれない。

ワタシはどうするべきなのだろうか――



「どうしよう。」



悩みが口から零れる。

無意識に指に髪の毛を巻き付ける動きを続ける。


頭には東子の嬉しそうな顔が浮かぶ。

あの笑顔を悲しみに変えるわけにはいかないよね……?



「まぁ、なんとかなるかな?」



一応、帰ってきたら葉月にも相談してみよう。

そう決意してコス衣装の製作に再び集中した。






「まったくお前達は!」



あれからオレ達二人は、主に喫茶店へ連れてこられた。

そうして説教を受けているわけである。



「……」


「危険な場合があるとは思わなかったのか!?」



今回ばかりは言い返す言葉もない。

実際オレ達はあの女性に連れていかれそうだったのだ。


もしあのまま――


あまり考えたくない妄想を頭を振ってかき消した。

一歩間違えば日織にすら迷惑がかかっていたのだ。



「どうした葉月、やけに大人しいな。」


「なんでもねぇよ……」


「先生が家まで送ってやる。 将大、お前はどうする?」


「俺は一人で帰るっす。」



将大はつまらなそうにそう答えた。

多分将大としてはあのままついて行きたかったのだろう。



「そうか……よし、行くぞ葉月。」



そう言って、オレの腕を引いて店から出た。






そのまま無理矢理、車の助手席乗せられた。



「シートベルト付けろよ。」



オレは何も言わずにシートベルトを付けた。

主は、カーナビに家の住所を入れると車を発進させた。



「今日のお前はえらく大人しいな。 普段ならすぐ騒ぐくせに。」


「……」



オレは答えずに視線を窓の外にやった。

正直今はコイツと話したくない。

何故かそう思った。



「お前って、やっぱり日織と双子なんだなって思ったよ。」


「どういう意味だよ?」


「大人しいお前は日織にそっくりだ。」


「ふん!」



そう言われるとなんだか腹が立った。

しかし今日はこいつに救われたのも事実ではあるから強く言い返せない。

――筋は通しておかないとな。



「ありがと。」



そう小さく呟いた。



「ほう、お前が礼なんて言うとはな。 明日は雨でも降るんじゃないのか?」


「人が素直に言ったらそれかよ!」



主の方に向き直して怒鳴ってやった。

しかし、主は不適な笑みを浮かべて言ってきた。



「やっといつものお前らしくなってきたな。」



なんだが無性に腹が立った。

大人に遊ばれる子供のようでむかつく。

でもコイツ、意外といい奴なんだな。


オレにもこれくらいの余裕が欲しいな……

そうすればこんな目に合う事もないのかもしれない。


一瞬、日織の姿が目に浮かんだ。

ごめんな、不器用でさ。






「ただいまぁ」



夕方になった頃、葉月が帰ってきた。



「おかえ――り!?」


「やぁ、お邪魔します。」



そこには葉月と笑顔の主先生がいたのだった。



―――


――




「いやぁ悪いね、晩御飯までご馳走になって。」


「いいんですよ、どうせカレーでしたし。」



何故か一緒に夕食を食べる事になってしまった。



主先生は学校でも人気の先生だ。

生徒一人ひとりに情熱を燃やし、親身になってどんな相談でも受けてくれる。

容姿も上々、まさに完璧人間のような人だ。

一時期は自分の事を相談しようとしたこともあったが、葉月に止められた。


結論としては、ワタシは主先生が結構好きだ。



「……」



しかし、さっきから無言の葉月が気になる。

何かあったんだろうか?



「そうだ、日織に少し話があるんだがいいか?」


「えっ?なんでしょうか?」



急に主先生が話しかけてきた。

話ってなんだろう……?


やけに主先生の視線が鋭いのが気になった。



「お前、日織に何かしたら許さねぇからな。」


「あぁ、分かってるよ。」



それだけ言うと、葉月は自分の部屋へと戻っていった。




「話というのは葉月の事なんだ。」



主先生は一言目にそう口を開いた。

嫌な汗が額を伝う。


主先生と一緒にいる時点で嫌な予感はしていたけど……



「なんでしょうか?」



なんとか平静を装い答えた。

もし正体がバレたのだとしたら、ワタシも危険かもしれない。



「葉月は普段から飯食ってるのか? 思った以上に腕が細くてびっくりしたぞ。」


「あぁ、あれでも結構普段から食べてるんですよ?」



よかった、気づいてないみたいだ。

ワタシは安心して息をついた。



「そうなのか、心配だな。」



本気で心配する様子を見て、本当に良い先生だと思う。



「私も葉月の事をしっかり管理しておくので大丈夫ですよ。」


「そうか、やっぱり日織はしっかり者だな。」



そう言って立ち上がると、ワタシの傍まで来て頭を撫でた。



「ちょっと、先生……」



ちょっと照れくさいけど、なんだが安心した。

こういうのってなんて言うんだろ?



「じゃあ俺は帰るよ、明日学校でな。」


「はい、お気をつけて。」



もっと撫でて欲しいという自分の感情に、少し戸惑うワタシであった。

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