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合コン

作者: 辰野ぱふ

軽い気持ちで書いています。

「あ、ママ?」

「そうだよ」

「あのね、聞いて欲しいの」

「また、何かあったの?」

「会社のサオトメさんって人が、合コンに行かないかって言うんだけど、どう思う?」

「さあ。ママは合コンなんて行ったことがないからわからないわよ。でもこわい人は来ないんでしょ?」

「うん。たぶん」

「じゃあ、行ってみたら?」

「そうっすっか~」

てなわけで、合コンに出かけることにしたミカちゃん。


合コンでは、まあまあ楽しめたけど、皆けっこうテンションが高くて、着いて行くのがやっとだった。その中で、カチカチに固まっていたイシバシ君ってのが目についたので、ミカちゃんはそっと話かけてみた。

「カッチカチだね」

「え、ええええ。は、初めてなんで」

「あ、そ。あたしも初めてだよ」

「そそそそそ、そうですか」

で、話が続かなくなった。

他の人とメアドの交換とかしてみたけど、ミカちゃんはイシバシ君が気になったので、帰りがけに自分から寄って行って

「ね、メアド交換しよう」

と軽く言ってみた。

「え? いいんすか? いいんすか?」

ってなわけで、イシバシ君とメアドを交換した。


帰りがけ、サオトメさんが話しかけてきた。

「今日、イマイチだったね。今度、また声かけるよ」

「え、ええ。よろしくお願いします」

「メアド交換してもさ、うざかったら別に返信しなくてもだいじょーぶよ」

「はい。そうします」

「あのイシバシって人の何が良かったの?」

「え? 別に…」

「だって、だれも無視してたのに、あなたメアド交換してたでしょ」

「ああ、なんかガッチガチってのが受けたので」

「へえ~~。物好きだね」


イシバシ君からなんか長いメールが来た。でも、どうやら食事に行こうというお誘いなので、ミカちゃんはママに電話した。

「あのね、合コンでねメアド交換した人ね。食事に行こうって誘ってくれてるんだけど、行った方がいいかな?」

「さあ、写真ないの?」

「うん、まだ…」

「じゃあ、とりあえず会って写メ送ってよ」

「じゃ、そうするね」


ってことで、ミカちゃんはイシバシ君に会った。

チェーンのイタ飯屋さん。ミカちゃんがわりと好きな店。

イシバシ君は今日もガッチガチで

「き、今日、ぼく、おごりますから、ぼく、おごりますから」

ってのを、話の中に5回くらい入れてきた。

「じゃ、ごちそうになるね」

と、ミカちゃんはかわいくうなずいた。

「ね、店の人に写真撮ってもらおう」

と言って、ミカちゃんがイシバシ君の椅子の方に移ったら、イシバシ君は焦っちゃって

「え。いいんですか? オレで? オレで?」

とかなり喜んでいた。

お店の人に写真を撮ってもらって、また向かいの席にもどって、すぐにママにメールで送った。

『イシバシ君っていうより、ジャガイモ君だね』

と返信があり、ミカちゃん受ける。ケラケラ笑っていると

「あ、なんすか? なんすか?」

とイシバシ君が気にしているみたいだったから、

「今、ママに写メ送ったの」

とミカちゃんはかわいらしく笑った。

「ええええ?? ママに? ママに?」

と焦るイシバシ君。

「うん、そうだよ」

と答えるミカちゃん。

イシバシ君は舞い上がり、心は天国に行っちゃった。

「え、じゃあ、ぼ、ぼくと結婚してくれるんすか?」

唐突に言うイシバシ君。

ミカちゃんはママに電話した。

「ママ、イシバシ君が結婚してくれるかって聞いてるけど、どうしよう」

「じゃ、変わって…」

と、ママとイシバシ君がスマホで話した。

イシバシ君はガチガチになりながら、汗だくになりながら、一生懸命ママの話に答えていて、

「あ、ママママ、ママが、あの、ミカちゃんに変わってってことなんで」

と、スマホを返して来た。

「どお、ママ?」

「うん、いい人そうじゃない。ちゃんとした家庭で育った人みたいだし、いい会社にお勤めしてるし、他に女を作りそうでもないしね、いいんじゃないかしら」

「結婚?」

「うん、まあ、そう急がなくても…、ちょっと様子見て、つきあってごらん」

 そうして、ミカちゃんはイシバシ君とつきあった。

 イシバシ君は真面目を絵に描いたような人だった。いつもガッチガチだった。ミカちゃんはなんか、それがおもしろかった。

 ミカちゃんには特に夢というものがなかった。ただ、ママが言うとおりにしているのが楽ちんだった。

 ママはいつもおしゃれにしているから、ミカちゃんもおしゃれが大好き。だけど、そんなにブランドものじゃなくてもいいし、それなりの感じで楽しめる。会社も楽しかったけど、結婚も楽しそう。

 イシバシ君と会うたびに二人の写真を撮って、それをママに写メして、何を食べた、どこに行ったと報告する。

今までもずっと楽しかったんだから、たぶん、このままでいいのだ。

そうして1年後に、ミカちゃんはイシバシ君と結婚することになった。会社は辞めることにした。

 まず、サオトメさんに報告に行った。イシバシ君とつきあうようになってから、サオトメさんが合コンに誘ってくれても一度も行かなかった。なんだか、それっきりサオトメさんとはあまり話もしなくなり、会社でもちょっとツンツンしている感じだった。

 サオトメさんに報告すると、サオトメさんは、すごくびっくりして

「ええええ? あの時の人と、ずっとつきあってたの? すごいね」

「そうなんですぅ」

 とミカちゃんは肩をすくめた。

「へええええ~」

と、サオトメさんはびっくりしっぱなしだった。

「結婚式は、家族だけでハワイですることにしました」

 と言うと、サオトメさんの笑顔は固まり、

「そ、良かったわね。おめでとう」

 と言った。


会社を辞める数日前、サオトメさんがミカちゃんに声をかけてきた。

「ね、ショウジさん、お祝いにご飯おごるから、予定が空いていたら、お食事に行かない?」

「わぁ。うれしい。じゃあちょっと待っていて下さい」

 サオトメさんは、ちょっとイラっとしたみたいだったけど、まあミカちゃんはいつもそんな感じだから、いいことにしたみたいだった。

 ミカちゃんはちょっと席を外して、イシバシ君にメールした。イシバシ君は真面目だから仕事中に電話をすると焦っちゃって、パニくる。メールなら大丈夫な時に、返事をくれる。

「サオトメさんが、私の結婚を祝ってくれるために食事をおごってくれるんだって! 

イシバシ君の仕事が忙しくて、会えない時にしようと思うの。いつにしたらいいかな?」

 会社を帰るまでに、イシバシ君から返信メールが来た。

「退職の前の日の水曜日にすれば?」

ミカちゃんも返事を打った。

「うん。そうする」


サオトメさんが素敵なカジュアルフレンチの店に連れて行ってくれた。

「すごい。おしゃれ。食べ物もおいしい」

 とミカちゃんは感激した。

 サオトメさんが遠まわしにいろいろミカちゃんに聞いてきた。

「あの…、イシバシ君って人だけど、つきあってみて、何がよかったの?」

「う~ん、わかんない」

 サオトメさん、口あんぐり。

「だけど、何か、決め手になったことがあったんでしょ」

「そりゃ、ありましたよ。婚約指輪買ってくれるって言ったり…」

「…、…」

「で、ママに聞いたら『指輪なんか結婚の時に一つもらえばいいから、その分、結婚してからあとで貯金することにしたら』って」

「へえ」

「そういう風に言ったら、イシバシ君が、じゃあそうしようって」

「ショウジさん。なんでもママに相談するみたいだけど、自分で何か決めたことないの?」

「え? だって、結婚するって返事したのはあたしです」

「まあ、そうだけどさ。これから、いろいろなことがあっても全部ママに相談するの?」

「そりゃあそうですよ。だって、あたしわからないもん」

「そんなにママが信用できるの?」

「そりゃあそうですよ。だって。あたし、未熟児で大変だったみたいなの。ママはその時自分が死んでもいいから、この子を生かして下さいってお祈りしてくれたんだって。だからママはあたしが不幸になるようなことをしろって言うわけないもん」

「ふうん。すごいね~」

 サオトメさんはあきれかえっちゃって、シラケてるみたいだった。

「じゃあ、これからも全部相談するんだ」

「うん。イシバシ君が解決できないことはね」

「ずいぶん簡単なんだね~。それでも人生楽しめるんだね~」

「はい。だって、皆あたしのこと思って言ってくれてるから」

「へええええ~~~」

「イシバシくんがあたしのこと大事にしていないみたいだったら、帰っておいでって。ママが言ってるし」

「へええええ~~~~。幸せ者だね」

「はい。ほんとうにそう思います」

「じゃあ、帰るんだ。うまく行かなくなったら」

「う~~ん、わかんないけど、たぶん、うまく行く気がする」

 と、ミカちゃんはメロンソーダをズズズズズ~っとすすった。

 サオトメさんは、「こいつには勝てねえ」って思った。で「こんな頭空っぽなヤツどうでもいいや」って思った。でも、「こいつは幸せになるだろう」って確信した。

「じゃ、幸せにね」

 と別れた後、のん気に改札口に向かうミカちゃんの後ろ姿を見て、サオトメさんは思った。

「でも、きっとあの人にだっていつか不幸はやってくるのよ。子どもを持ったり、なんだり、いろいろ人生は大変なんだから! くそっ。あれくらいバカならあたしだって幸せになれるよ! ちぇっ」

 サオトメさんは、やれやれと思いながら、次回の合コン日程をチェックして、新たな出会いを夢見て、心を切り替えた。



















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