白衣の魔女は可憐に微笑む②
決意もむなしく登校したそう介の前に現れたのは、女子にモテそうな爽やか系の男子生徒を中心にした総勢十余名の集団だった。
待ち伏せしていたらしく下駄箱で上履きに履き替えたところでどこに潜んでいたのかぞろぞろと出てくる出てくる。
そう介が向けるうろんな目つきに腰が引け冷や汗をかきつつ誰も逃げ出すことはしない。
その根性は認めるがなぜ囲まれなければならないのか。
入学してから初めての出来事にそう介も内心狼狽えてはいるがが顔には出さない。
長年の染み付いた習慣で自然と眉間に皺が寄り顎を引いて下から睨みを効かせる。
逆にそう介を囲んだ生徒達の顔は恐怖にひきつっていく。
それでも逃げ出さないのは爽やか系男子が守るように先頭に立っているからだ。
その爽やか系男子が口を開く。若干声が上擦っているが、そう介に話しかけたことでどよめきが起こった。
勇者だ、勇者が降臨したとそこかしこで囁かれているがそう介も爽やか系男子も反応する余裕はない。
皆が見守るなか爽やか系男子は第一声を発した。
「や、やあ。話すのは初めてだね。一応同じ学年だけど…知らないよね。僕は二組の優木瑞穂」
これは、いわゆる集団リンチだろうか?
この流れでいくとそう介を囲んでいる生徒達はゆかり親衛隊とかそんな何かだろう。
他に絡まれる理由が見当たらない。
一ノ瀬学園にそう介の他に不良はいない。そこは進学校だ。多くの生徒が真面目に勉学に励んでいる。だからこそ、その中でそう介は異質と言えるのだ。
最近一方的な友達コールを受けているのはそう介であり被害者なのだが周囲から見れば学園のマドンナに近寄る不届き者に写っているのかもしれない。
そう介を放置する訳にもいかず、ここで動き出したのだろう。
警戒心も露に爽やか系男子改め優木瑞穂を睨むと、顔をひきつらせながらも何とか笑顔を保ち進級後二度目の爆弾発言を投下してきた。
「君にお願いがあって来たんだ。ぜひ…ゆかりさんの友達になってくれないか?」
「………は?」
「突然で驚くよね。でも僕たちは真剣なんだ!…ゆかりさんに今、友人と呼べる人が周りにはいない。それはゆかりさんが人に対して興味を持たなかったからだ。研究に次ぐ実験。彼女の興味はそれに尽きた」
優木一同思い詰めるように眉根を寄せ肩を震わせる。
そう介はその状況にまったくついていけないが何かものすごい厄介ごとに巻き込まれようとしている危機感が募る。
しかし!と声を張り上げる優木にそう介の体がはねる。
「君ならば!ゆかりさんを人の和の中に引き入れることが出来るかもしれない!だから頼む!ゆかりさんの友達にっ!」
「「友達に!」」
「なってくれ!」
「「なってくれ!」」
なぜ復唱する。心の中の突っ込みはそのまま胸の中でこだましてやがて消えた。
答えなど最初から一つしかない。
「断る!」
そんな!?と方々から声が上がるが知ったこっちゃない。
「というか普通、ゆかりさんには近づくなって言うところだろ!?なんで友達推奨してんだよ!!」
「ふっ。そんなの決まっている。友達の友達はみんな友達。ゆかりさんの友達になった君と友達になれば、僕らももれなくゆかりさんの友達。ああ、素晴らしいじゃないか!これで人類皆平和。学園一の不良少年もたくさんの友達に囲まれて丸くなり、怯えて暮らす日々も終わりをつげましたとさ。めでたしめでたしとなるわけだよ」
「お前……頭、大丈夫か?」
その熱弁ぶりにーー引いた。
背後には下駄箱がそびえているため動けないが気持ち的には海を越えたと思う。
親衛隊一堂はうんうんと熱く頷いているが野次馬をしていた生徒達は内容があれすぎて誰一人身動ぎもしない。
……呼吸も止まってないだろうか。それは気のせいだと思いたい。
何はともあれ変な宗教には関わらないに限る。勧誘されたからといって入信する気は全くないが。
言い切り恍惚とした優木らの脇を通り抜けようとした。が、見逃してくれないらしい。すかさず親衛隊が隙間を埋めて逃げ道を塞ぐ。
「おい。邪魔だどけ」
そう介の恫喝に悲鳴が上がるが誰一人その場を離れない。
「頼む!一生のお願いだから!」
「後にも先にもお前の願いを聞き入れるつもりはない!その文句は親か恋人に使え!気色悪いわ!」
「よし。分かった。順序が気に入らないんだな。先に僕と友達になろう。これで僕と君は大親友さ。さあ、ゆかりさんと友達になってきてくれ!」
「なんにも分かってねぇよ!この学校の奴らは人の言葉を曲解するのが基本装備なのか!?周りの奴もあっ、ずるいとか言うな!」
「じゃあ、君はどうしたいんだ。嫌だばかりじゃいつまでたっても話は平行線のままだ。一ノ瀬学院生らしく代替案を出したらどうだい?」
とうとうそう介は頭を抱える。通じない。噛み合わない。会話とはこういうものだっただろうか。親とトムとしか話さなかった自分の会話スキルが低すぎるのだろうか。
というかこいつら俺のこと怖がってないだろう!
「……俺は誰とも親しくなるつもはない。いい加減鬱陶しいぞ」
気の弱そうな生徒に標準を合わせて殺気を向ければ、「ヒッ!」と飛び退き今度こそ人の生垣が崩れる。
修復する前に抜け出れば追い縋る気配はあったが無視して教室に向かう。
教室に入ったところでちょうど良くチャイムが鳴ったためしばらくはあいつらも来ないだろう。安堵して席につけば隣から「おはよう」と挨拶される。
前途多難な今後に今年何度目かわからないため息をついた。




