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偵察

2週間ぶりの投稿となります。

投稿するペースが2週間に1回とかそんな感じになりますが、失踪はしない(と思うので)ご安心ください。


※追記

キカプロコン一次選考の結果が発表されるまで更新を停止します。

ごめんなさい!

翌日、正午。リッカを隊長とした3人の食糧班隊員は『アルメリア』という街に買い出しに出ていた。

アルメリアはグラジオラスでも特に物流の発達した街で、ほとんどの物はここで手にいれることができる。


迷いの森からアルメリアまで、そこそこの距離があるのだが、買い出しに軍用車両(ハンヴィー)を使うのは目立つし燃料がもったいない。だから普通、買い出しは徒歩、少人数で行う事になっている。大人数だと不自然に思われるからだ。リッカ達が帰投したら、直ぐに別の食糧班の隊員が来るだろう。

アルメリアから迷いの森までは機械化兵士の足でも1日はかかる。

一般車も用意しろとの声も上がっているのだが、ガソリンは軍用車両(ハンヴィー)の分だけで精一杯な状態のため、恐らく一般車を使うことはこの先無いだろう。


「前線部隊の皆はとっくに帰還しているはずだけど……大丈夫かなぁ」

リッカは、迷いの森を出てから幾度となく繰り返してきた台詞を吐いた。


「リッカ、静かに」


「聴こえるよ」

そんなリッカを嗜めたのは、グラジオラス軍からの付き合いであるセロとルーシュだ。2人は双子で、セロが姉ルーシュが弟の、機械化兵士でもレアな存在だ。

薬物投与によって変色した銀色の髪が、昇りかけている月の光に反射して輝いている。


「ごめんなさい。どうしても気になっちゃって」


「リッカはアリスが大好きなんだね」

ふっ、とセロが表情を和らげた。

感情表現が苦手なセロが笑うのは珍しい。


「はい。大好きですよ」

少し頬を赤らめながら、そう答える。


「というより、私は蒼海蒼空の彼方の皆が大好きです。あの地獄から救い出してくれた、恩人さんたちですから」


「そっか。皆無事だといいね」


「はい!」


***


「ええっと……日用品を購入ですよね」


「うん。リッカは石鹸、私とルーシュが薬系で。お店は複数回ってね」

ヒズミの配慮で、3人は軽く尚且つ大量に運べる物を指定された。資金は主に、前線部隊が賄っている。襲撃した時に金庫を破るのだ。

軍の基地や兵器工場の金庫は、ある程度の貯えがあり、実は軍が襲撃で一番困るのが金庫破りだったりする。

しかしグラジオラス軍は強化した金庫の配備を進めているため、最近はめっきり収入が落ちてしまった。


「おねーちゃん、お腹空いたよぅ……」

普通だったら、誰も気付かない程小さい声が聴こえた。


「もう2日何も食べてないもんね……」

空耳、というわけではない。

聴力強化し、僅かな物音も聞き逃さないよう軍で徹底的に訓練された機械化兵士は、囁き声や物音ほどよく聞き取れるのだ。


「近くにいるよね」

ルーシュが辺りをキョロキョロとする。


「見つけても関わらないでください。1人にでも何かあげたら皆にたかられます」

これはリッカの体験談だ。アルメリアは、物流が発達しているが故に、経済格差も極端に広がってしまっている。貯えが充分すぎるほどある裕福な家があれば、住居が無いのは勿論今日食べる食料も手に入らない者も沢山いる。


前々回の出撃(かいもの)で、リッカは耐えかねて1人の少年にパンをあげたら、沢山の子供にたかられたのだ。結局リッカは、所持金の全てを彼らにあげてしまい、後でヒズミにこっぴどく叱られた。


「だけど……」


「駄目なものは駄目です。与えられた任務に従ってください」

リッカは奥歯を噛み締めた。

助けたいのは私だってそうだ。助けられるのに、何もできない。


「……うん」


《あー、3人とも、聴こえる?》

突然、3人とも携帯しているトランシーバーからヒズミの声が流れる。


「はい。聴こえてますよ」

最初に反応したのはリッカだ。


《お願いした物は買えた?》


「いえ……。これからお店を回る予定でしたが……」

と言うと、ヒズミがぼそぼそと、ううん、取り敢えずまだストックはあるし……いいか。と何事か呟いた。


「何か問題が発生したのですか?」


《戻ってから説明するよ。3人とも、買い出しはいいから大至急帰投して》


「えっ……」

買い出しとはいえ、これも立派な任務だ。よっぽどの事がない限り、戻ってこいなどと言うわけがない。あったとすれば……


「前線部隊に、問題が発生したのですか?」

一言一句、絞り出すように言う。まさか、そんなはずは……。


《言う時間が早まっただけか……。そう、前線部隊が負けたの。救護班だけじゃ足りないから、3人にも手伝って欲しい》


「出撃した人数よりも控えは圧倒的に多いですが」


《迷いの森入口付近にグラジオラス軍の部隊らしき集団が集まってる。残りの前線部隊は全員それの対処、迎撃のために出動させた。装開班は軍用車両(ハンヴィー)や武器の修理にかかりっきり。救護班だけじゃ回せないの》


「ですが、私達も今から戻ると到着するのは翌日になります。戻ってきた頃にはある程度落ち着いているのでは?」


《問題ないよ。全員の手当てと修理に2,3日はかかる見込みだから》

彼女らがオーダーされた品物は、比較的重要度の低い物ばかりだ。しかし薬剤は常備しておかなければならない、重要な物資である。肉体をいくら強化しようと、伝染病や感染症への耐性は生身の人間とそう差はない。それを後回しにしてまでリッカ達に帰投命令を下すとは、ただ事ではない。


「了解しました」


***


「イリヤ。あいつら、機械化兵士だよな?」

鬱蒼と生い茂る木々を盾に、前線部隊の全兵力が、入口付近でうろうろとしている特殊部隊員らを警戒していた。


前線部隊は皆、手話での会話をとっている。

特殊部隊との距離はおよそ100m。木々のお陰で体感的にはもっと遠くに感じるが、この距離だと機械化兵士ならば簡単に会話を聞き取れる。いや、訓練された兵士ならば、一般の兵士でも余裕だ。

そういった場合に用いられるのが、グラジオラス語での手話となる。


「恐らく。グラジオラス軍製の防弾スーツを装備しているからな」

10体の敵機械化兵士はAR78を提げ、腰には改良型HFOブレードを装備している。


「気持ち悪い集団だな」

特殊部隊員は全員、顔面を犬の髑髏とおぼしきフルフェイスガードで保護している。そのため素顔を確認することができない。


「確かに不気味な部隊です」

数値的な観点から言えば、蒼海蒼空の彼方のほうが圧倒的に強い。地形的にも、彼らのほうが有利だ。しかし、


「交戦はするなよ?」

イリヤは念のために釘を刺しておいた。

こちらのほうが有利ではある。しかし、今交戦したら蒼海蒼空の彼方の拠点を悟られてしまう。

仕掛けていいのは、こちらとの距離が半分を切ってからだ。


***


「この樹海の中に本拠地があるらしい」

カルミアは、天まで届かんばかりに伸びる木々を見上げながら、仲間に話しかける。


「どうして知っているんですか?」

カラーが不思議げに尋ねてきた。


「自白剤を使った」

極力平淡な声になるよう努めながら、カラーを見ずにそう言った。


「意外と早かったですね。出来れば使いたくないと仰ってたのに」


「……まあな」


「それで、4体の機械化兵士はどうするんですか?」


「俺に発言権は無いからな。何とも言えん。……多分、初期化(リセット)して再利用だろう」


「鬼畜ですね」


「それが軍隊だ。――さあ、帰るぞ」


「いいんですか?」

アンズはカルミアの判断に納得がいかないようだ。


「いい。今回は下見だけで。それに、迷いの森は自然遺産だ。下手に暴れると後で煩く言われるしな」

迷いの森は、樹齢100年が最低で、中には1000年近くの木ある。状態も良く、生態系も人間の手が全く加えられていないため、自然の博物館とも比喩されている。海外からの評価も高く、自然遺産に登録されている。


とは言え、調査団も1度奥まで進入すると出られなくなる危険があり、生態系の調査は殆どされていない。

加えて、無事脱出できる可能性も限りなく低いため、観光客にも周りを見る程度にと呼び掛けている。一応警備隊も配備されているが、警備は適当で殆ど巡回もされていない。

蒼海蒼空の彼方にとって、これ以上ないくらい好条件な立地だ。


「じゃあ、引き上げて作戦を練るか」

カルミアは既に気付いていた。ARシリーズの銃口の先端が、木の裏から覗いていることに。

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