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戦闘開始

やっとバトルパートまでもってこれました。

けど戦闘描写は苦手なんです……

午前2時30分。裝開班の主な活動場所である車庫(ガレージ)で前線部隊35名と、ヒズミが待機していた。

隠れ家(シェルター)とは別の崖をくり貫いて造られた車庫(ガレージ)は、大型の軍用車両(ハンヴィー)13台が収容されていてもまだまだ余裕があるほどだ。普段は、車輌の整備の他に火器類の点検もここで行っている。


「本作戦の指揮官をギア、イリヤを副官とする」

作戦開始直前のヒズミは、普段からは想像もつかないような冷徹な口調に変貌する。しかし、これが本来の姿なのだ。


前線部隊員の標準装備として、グラジオラス軍の旧式の自動小銃(アサルトライフル)である『AR24』が使われている。

HG01を開発した銃器メーカーである、『アルテミス・アームズ社』の傑作品のうちの1つだ。

使用する弾薬は5,45x39mm弾で、殺傷能力は低めだが、初速が高く扱いやすいという利点がある。


AR24の他に、個人携行用の地対空ミサイルである、『SAM44』を背負わせている。折り畳み式で、機械化兵士ならば背負っていても作戦に何ら影響はしない。加えて使い捨てなので、撃ったらすぐに投棄できる使い勝手の良さも持ち合わせている。

今回はSAM44の他に、C4ーープラスティック爆弾も携行している。C4は世界的に使用されている粘土状の爆弾で、信頼性が高く、破壊力も高い、戦場で安定した働きをする兵器だ。


タクラカサム地区に配備されている兵器は、殆どが機械化兵士に変更されている。それに伴い、攻撃ヘリや戦車よりも輸送機が多く配備されている。


「では、諸君らの武勲を祈る」

ヒズミが敬礼をすると同時に、ギア達35名が一斉に軍用車輌(ハンヴィー)へと乗り込んだ。


***


迷いの森からタクラカサム地区まで、30kmほどある。

ギアが乗車した『1号車』を先頭に、綺麗に一列に並んで走行している。

軍用車輌(ハンヴィー)は、残りが5kmの距離で停車させ、後は歩いて基地まで向かう。

車を破壊されたら、帰投することが不可能になってしまうからだ。


「空が綺麗ですね」

運転手のアレンが、殺伐とした車内の雰囲気を良くしようと、夜景の話をしはじめた。

確かに今夜は夜空が綺麗だ。

雲1つ無く、星々は宝石のように輝いている。月は真っ白く、手を伸ばせば届きそうなほど近づいている。


「そうは言われてもよー。俺たちは見えないんだぜ?」

防弾を考慮してか、座席の窓は有って無いようなものだ。

運転席の窓は、辛うじて空が見える大きさになっている。

もちろんアレンはそれを分かっていての発言だ。

隊員もそれでも緊張が溶けたのか、空気も和やかなものになった。


《間もなく停車ポイントです。車を停めて、徒歩に切り替えましょう》

ヘッドセットから、副官のイリヤの報告が各員に通る。

ギアに憧れているイリヤは、口調や仕草を真似ているが、全然似ていないと皆の笑い話にされている。


「了解。ーーアレン」


「わかりました」

徐々にスピードを緩める。迷いの森を過ぎると、すぐに荒野に変わっているため、軍用車輌(ハンヴィー)を隠すスペースが無くなってしまう。気休め程度だが、軍用車輌(ハンヴィー)の外装はカーキ色をメインとした砂色で塗装されている。しかし、障害物も何もないここでは意味をなさないが。


「運転手はここで待機。それじゃあ、行こう」


***


「おいおい。俺らが襲撃することがバレてんじゃないのか?」

部下の1人が呆れたような声をあげる。

無理もない。基地が目視できる500m近くまで接近すると、工場の建物や排煙塔のシルエットがうっすらと……ではなく、基地のサーチライトによって夜中でもはっきりと見えている。

蒼海蒼空の彼方が襲撃することを予知してだろう。

基地には当然、機械化兵士以外の生身の兵士も数多く配属されている。しかし、機械化兵士の存在は幹部以外には知られてはいけない。そのため、対蒼海蒼空の彼方戦となると、基地からだいたい500mほど離れた地点がメインの戦場となる。ヒズミはこの地点を、"絶対防衛線"と呼んでいる。

この絶対防衛線を突破すれば、ギア達の勝利となる。


上空には、夜中だというのにも関わらず、偵察ヘリの『DF05』が3機、巡回をしている。

DF05は、グラジオラス軍が偵察時によく飛ばす有人ヘリで、トンボのような外観をしている。


地上でも、装甲車が基地の外周を一定のペースで巡回し、常に警戒をしている。

加えて、全身を漆黒の防弾スーツで防護した機械化兵士が20体、新型の自動小銃(アサルトライフル)、『AR78』を装備している。

AR78は、アルテミス・アームズ社の新型の自動小銃(アサルトライフル)で、高威力の7,62mm弾を使用する。軍人でもこの弾薬では、フルオート射撃は難しいが、機械化兵士ならばフルオートで射撃しても何ら問題はない。発砲音とマズルフラッシュを抑えるためか、銃口には消音器(サイレンサー)を装備している。


タクラカサム地区は、国から『工業特化地区』に指定されていて、ここでの生活は規制されている。

工場はもちろんのこと、近くに基地も建設されていて、ここでのテロ行為は困難である。

それに加え、タクラカサム地区の工場は最新の機械類の開発を行う『研究所』としての側面もあるため、ここの基地に配備されている兵器数、兵員数は国内でも上位を争う。


「どうします? この調子じゃすぐに全滅しますよ?」

イリヤが、心配げな声でギアに指示を求める。

敵が油断していること前提の作戦だったにも関わらず、その敵が臨戦態勢となると、撤退するのが得策だろう。

見渡す限り荒野のタクラカサム地区は、攻める側にとっては障害物もなく、この上なく不利な地形だ。


「撤退はしない。作戦を開始する。扇状に散会。キール、装甲車の走行ルート上にC4を設置して」


「了解」

すぐさま走り出す機械化兵士達。

筋力強化されている上に、動力装置を組み込まれているため、その速さは自動車にも劣らない。

そして彼らは、ほぼ同じ速さで展開をしている。


ヒズミを始めとした第1世代以降のモデルには、脳にデータリンクシステムの搭載も考案されていた。しかし実際に組み込むと、システムエラーを起こし、失明や半身不随、内臓機能の停止など、様々な不具合が発生し結局破棄されてしまった。

そのため、集団での作戦を遂行するにはやはり日頃からの訓練によって左右される。


「こちらギア。設置を完了した?」

DF05に見つからないよう、できる限り姿勢を低くし、声を抑えて架電する。


《こちらキール。設置を終えました》


「了解。キール、起爆のカウントをお願い」

装甲車の爆破と同時に作戦開始だ。起爆と同時に走り出し、施設内に侵入、その間常に仲間と連携をとらなければ。


《5秒前ーー……4、3、2、ーー起爆します》

左側に50mほど離れた所でだろうか。地を揺るがすような爆音と共に、炎が闇夜に巻き上がる。

それと同時に、放たれた弾丸のように機械化兵士達が走り出す。

サーチライトがすぐに火元に向けられ、機械化兵士数名が照らされる。


《戦闘開始だッ! 走れッ!》

ヘッドセット内が隊員のがなり声で騒がしくなり、散発的に銃声が聴こえる。敵の機械化兵士達が発砲してきたのだ。


《出遅れているのは誰ッ?!》

振り向くと、サーチライトの光をもろに浴びたらしい数名の機械化兵士達が、目を防いで蹲っていた。


「あいつらッ……」

荒い口調でギアは毒づく。

光増幅装置は僅な光を数倍にまで高める装置だ。

そこに軍用のサーチライトの光を直接浴びようものなら安全装置が作動して、一時的な失明状態になることは不可避だ。

今すぐ助けなくては。

見たところ、動けなくなっているのは3人。あと2人応援を求めればなんとかなるだろう。


「こちらギア。三名倒れた。僕とあと2人救助に回って」

すぐさま向きを変えて、3人のもとへ走り出す。

サーチライトは依然彼らを照らし続けている。


《こちらネイソン。隊長、私が救援に向かいます》


《こちらアリスン。俺も救援に向かいます》

ネイソンとアリスンは、前線部隊の衛生兵(メディック)を担当している。3人の近くにいたのだろう。ついている。


「了解」

残り10m程だ。サーチライトを照らし続ける理由はわからないが、それのお陰で見失わずにいる。

まだ目が見えないのだろう。痛みと恐怖で3人は声にならない悲鳴を挙げている。


「大丈夫?!」

あと3mにまで近付いた刹那、蹲っていた3人の内の1人の頭部が弾けた。

ぐちゃりと不快な音を上げ、脳奬を周囲に撒き散らす。

びくりと一瞬痙攣した後、悲鳴が止み、絶命した。


「え?」

思わず立ち止まる。

立て続けに2発、銃声も何もなく残りの隊員の頭部を吹き飛ばす。銃声はしなかった。狙撃銃ならば空を裂くかのような鋭い銃声が轟くはずだ。

考えられる可能性はただ1つーー


「ーー電磁砲(レールガン)……」

ヒズミが入手した情報では、電磁砲(レールガン)は火薬を使わずに発砲するため、銃声が鳴らないという。

しかし、今の攻撃では音が何も鳴らなかった。

消音器(サイレンサー)を使用した時のくぐもった音ではない、完全なる無音。


サーチライトは3人を狙撃し殺したことを確認し終えたのか、次なる獲物を探すために再び動き出した。

幸いにも、ギアには気付いていないようだ。


「ネイソン、アリスン到着しました! 負傷兵は?!」

背後から、応援要請をしていた2人がやってくる。


「……戦死……」


「え?」


「負傷していた兵士3名は死亡。遺体は破棄。2人とも作戦に戻って」

掠れた声で、弱々しく2人に告げる。


「どいてくださいッ!」

アリスンが乱暴に、ギアを押し退け遺体の確認をとる。ネイソンもそれに続く。


「いゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

ネイソンは3人の惨たらしい亡骸を見て、絶叫した。

頭部だけが丸ごと吹き飛ばされ、土下座のようなその死に様は生理的な嫌悪感と共に、安らかな死すら許されない機械化兵士の運命に対し激しい怒りを起こさせる。3人の首からは今なお、鮮血がポンプから吐き出される水のように溢れ出ている。


「遺体の回収はしない。2人とも、作戦を続けて」

有無を言わさず、ギアを2人に背を向け、戦線復帰するために走り出す。


「こちらギア。各員、光増幅装置を落として。それからサーチライトに照されないよう注意して」


ーー絶対に許さない。


***


大天使(アークエンジェル)射手から通信が入りました」

指令室で待機していたセロシアに、モンクシュッドが報告するために入室してきた。


「何だって?」


「"3名を射殺に成功。電圧、威力、射程共に安定している"と。……議長、大天使(アークエンジェル)は成功ですよ。これで西側の大国にも一泡吹かせてやれますね」

セロシアはその話には何も答えずに、静かに懐から葉巻を取り出す。


「……モンクシュッドよ」


「何でしょうか?」

マッチに火を着け、葉巻を吹かす。

紫煙が立ち上ぼり、指令室がヤニの臭いで覆われる。


「残りは機械化兵士に始末させろ」


「宜しいのですか? たった3発でしたが……。時間はかかりますが、大天使(アークエンジェル)があれば殲滅も可能ですよ」


「時間がかかりすぎる。試験は十分だ。……それに、あまり長引かせると、他国に大天使(アークエンジェル)の存在が知れ渡るかもしれない」


「了解しました」


「それから……」

と、セロシアは短くなった葉巻を灰皿に揉み消し、一呼吸開ける。


「皇帝に蒼海蒼空の彼方の壊滅作戦を提唱しに行く」


「本当ですか?」


「ああ、大天使(アークエンジェル)を輸送するときに俺も連れていくよう話を通しておいてくれ」


「わかりました。しかし、どうして急に壊滅を?」


「奴らのテロ行為は、正直言って痛くも痒くもない……だが、これから他国との戦争が始まるとなるとそうも言っていられない」

グラジオラス国内には、蒼海蒼空の彼方の他にも多数のテロ組織が存在している。

グラジオラスは、君主制で民衆の意思など反映されない。それに反対し、民主制を求めテロ行為が日々散発的に発生している。しかし、組織はどれも小規模で、被る被害もそれほど甚大ではない。蒼海蒼空の彼方も、機械化兵士とはいえ子供だけの集団だ。脅威的な存在とはとてもではないが言えない。だが……


「それぞれの組織が連携をとった場合、大きな脅威となるだろう。特に、これから戦争が始まるとなると、ますます反対勢力は増加する」


「出る杭は打てって事ですね」


「そうだ。まず最優先すべきは、数ある組織のなかで最も危険な勢力に成りかねない、蒼海蒼空の彼方からだ」


***


戦場は荒れるに荒れていた。

障害物がない場合、機械化兵士は自身の反射神経、瞬発力を利用して弾丸を避ける戦法をとる。


《クソッ! こいつら、前より強くなってねえか!?》


《2体につかれてる! 誰か援護を!》

回線は隊員の悲鳴や怒号で溢れている。

DF05の航空支援も相まって、蒼海蒼空の彼方が圧倒的に不利な状況だ。


ギアは現在、3体の機械化兵士と交戦をしている。

戦線に復帰した途端にサーチライトの光が途絶え、その代わりに機械化兵士が60体に増加した。

恐らく、敵は前線部隊を手っ取り早く片付けるつもりだろう。

電磁砲(レールガン)は強力だが、照準が合わなければどうということはない。

高速で動く機械化兵士に照準を合わせることは至難の技だ。

それくらい、誰だって思い付く。


3体はギアを取り囲むように、3角形に展開をしている。

近接戦闘に持ち込むつもりなのか全員銃でなく剣、それも刃渡り50cm程のHFOブレードーー高周波振動刃だーーを装備している。


HFOブレードは、刃を超高速で振動させ、切断能力を飛躍的に高めた近接兵器だ。

水中にこの刃を突っ込み、スーパースローカメラで撮影すれば、水面が揺れているのが確認できる。

機械化兵士でも、HFOブレードで斬られたらひとたまりもない。


「……」

対するギアは、自動小銃(アサルトライフル)拳銃(ハンドガン)のみ。近距離での戦闘では、飛び道具よりも近接兵器のほうが有利なのは火を見るよりも明らかだ。

3体はすぐには飛び出さずに、タイミングを測っている。

その姿はさながら侍のようだ。


ーー来るッ!

ギアが直感的にそう感じたのと、3体がギアめがけて走り出したのはほぼ同時だった。


3体の速さは、機械化兵士の動体視力をもってしても追い付かないだろう。

全ての機械化兵士には、1回の戦闘で1度だけ使える装置が搭載されている。

名前は『ブースター』。脚に組み込まれた動力装置を爆発的に加速させ、速力を限界以上に引き出すのだ。

ただし、これを使用すると脚の動力装置が故障し変形して、走れなくなってしまう。使用したらすぐさま修理しなければならない。

1回の戦闘で1度しか使えないのはそれが原因だからだ。


限界の先の速さ。機械化兵士として強化された力で振るう斬撃。鋼鉄ですら容易く切り裂くことのできる剣。

それが3つ、ギアめがけ流星のように向かってきている。

それでもギアは、眉1つ動かさずに構えている。


思考超加速(バースト)

誰に聴かせる訳でもなく、ぼそりとギアは呟いた。

刹那、超高速で動いていたはずの機械化兵士達が、今は止まっているではないか。


思考の伝達速度を上げられたギアは、その副産物としてもう1つ力を得ている。

思考超加速(バースト)』。

伝達速度は、ギアの意思によって調節できる。そして、速度を最大まで引き上げたとき、ギアがこの世界で誰よりも先を進むことが可能となるのだ。

このとき、ギアの目線からは全てが止まって見える。

ただし脳に多大な負担をかけるため、1秒しか保たず、その上使用すると目から血の涙を流す。


3体が同じタイミングで、同じ速さで分子振動刃(ソニックブレード)を横薙ぎに振るうのをはっきりと視覚した。

軌道は、ギアの首。確実に仕留めるつもりだろう。

しかし、敵はギアの能力を知らない。

一瞬だが、停止した世界の中で1人、動けるということを。

尻餅をつくようにして、地面に倒れる。

間一髪、刃はギアの髪を撫でるようにして通りすぎていった。


そしてその刃は斬るべき者を斬れず、そのまま互いの首もとに潜り込み、切断した。

ごとりと頭が落ちて、傷口から血が間欠泉の如く吹き出しギアの身体を濡らす。

頭を失ったが、死ぬ間際までその事実に気付いていないのか、数秒、がくがくと痙攣し真後ろに卒倒する。


「痛い……」

バーストの副作用で、激しい頭痛に襲われる。

目からは血の涙を流し、全身を真紅に染めたその姿は鬼のようだ。


《ギアっ! 大丈夫?!》

遠くから見えていたのか、アリスが心配してきた。


「ぅ……うん、問題ないよ」

血の涙を袖口で拭ったが、袖口自体が血で汚れているため、整った顔がますます汚れてしまった。


《帰還、する?》


「ううん、まだ戦える。大丈夫だよ」

立ち上がり、前髪をかきあげる。

味方の活躍もあり敵は徐々に減っている……どころか、ますます増えている。

物量で押しきるつもりなのか、タクラカサム地区の全兵力の70体を追加投入してきた。

100対25。こちらに勝ち目がないのは、誰だって分かる。


《隊長! 撤退命令をッ!》


《この差は無理です!》

悲鳴にも近い声が、ヘッドセットを通じてギアに伝わる。

この局面で最もベストな選択は、撤退以外ないだろう。


《こちらヒズミ。現在人工衛星を介してそちらの状態を観測している。ただちに撤退せよ。ギア、撤退方法を考えて》

ヒズミももちろん、毎回の作戦を衛生(サテライト)によって観測している。基本的にヒズミは、現場での指揮を全てギアに任せていて、今回のように割り込んできたのは初めてだ。

しかし、


「作戦を継続。戦線離脱は許さない」

作戦中のギアに、撤退という言葉はない。

地獄のような環境から救いだしてくれたヒズミに報いるため、与えられた仕事には絶対に完遂しなければならないという考えしかない。たとえ目が潰れようと、手が吹き飛ばされようとしても、動ける限りは任務を遂行するだろう。


《ギア?!》


《このままじゃ全滅するのも時間の問題です!》

隊員から非難する声が殺到する。

ギアの命令違反は今に始まった事ではない。しかし、今ここで撤退しなかったら全滅するのも時間の問題だ。


《やむ終えないな……。イリヤ、お前を現時刻をもって指揮官に任命。各員、イリヤの指示に従ってただちに撤退せよ》

ギアが使い物にならないと判断したのか、イリヤが指揮を始めた。


《了解》

他の隊員は、イリヤの指示に従いながら後退を始める。

しかし、ギアは後退しなかった。


「好きにすればいいよ」

と、トランシーバーの電源を切りそして投げ捨て、敵に向かって駆けようとした直後だった。


「ごめんね」

誰かが気づかぬうちに回り込み、背後から思いっきり頭部を殴られた。


「うっ……!」

後ろからの攻撃には警戒していなかったため、全くの無防備であった。

2、3歩たたらを踏み、そのまま前のめりに倒れる。

起き上がろうとするが、脳震盪を起こしたのか体が動かない。


「少し痛むよ」

うつ伏せに倒れたギアはぶすりと、太い注射を首もとに刺される。

睡眠薬? ……ヤバイ、意識が……。

そしてそのまま、深い闇の中に意識を持っていかれた。

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