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re:夜明けの咆哮

「来ましたか」

車庫(ガレージ)では、意外な人物が待っていた。


「イリヤ……」


「見送りに来ました。それから、アリスからのメッセージを伝えに」


「え?」


「さあさあ、その前に出撃準備をしないとな」

レノが、二人の間に割ってはいる。


「HG01なんだが、お前が愛用していたやつは壊れて修復ができないんだ。だから、これを」

そう言って、装開班班員に持ってこさせたのは、"HG96"。

HG01の上位拳銃だ。


「それ以外はいつも通り。……車は出せないから、自力で行くしかないぞ」


「平気。二時間あれば余裕で着くよ」


「……わかった。死ぬなよ」

レノが右手を出してきた。


「うん」

ギアは、その手を握りしめ、決意を固める。


「さて……見送りますか」


***


午後11時55分。迷いの森の出口付近。三人は横一列で歩いていた。


「じゃあ、俺達はここまでだから」

レノとイリヤが立ち止まった地点は、ヒズミが絶対防衛線と定める地点だった。


「うん。二人とも、ありがとう」

……頭痛が酷くなってきた。

二人に悟られないように、ギアは普段通りの声音を努める。


「いいっていいって。帰ってきたら、この分の埋め合わせをたっぷりしてもらうだけだから」

レノはけらけらと、いつも通りの調子で笑っている。

……すごく、ほっとする。


「それじゃあ僕からは、アリスの言伝てを」

イリヤが一歩前に進み出た。

それでギアは、無意識のうちに身構えてしまう。


「"ギア――――"」


***


「……来たよ」

迷いの森を出てから約一時間半後、タクラカサム基地の絶対防衛線目前まで迫っていた。

前回の出撃とは違い、今回は警備は緩くなっている。

機械化兵士を配置せずに、一般の兵士を。装甲車両を走らせずに、サーチライトで周辺を照らしていた。


「"生きて"、か……」

アリスからの伝言だ。

ただ、その一言だけだが、そこに込められた思いはどれ程の重みを持っているか、ギアには……いや、機械化兵士なら分かる。


でも……。


「生きる意味なんて、この戦いが終わったらなにも無いよ」

兵器らしく、目標を達成したら、もう、楽になりたい

沢山の命を奪ってきたこの手は、血で汚れきっている。


――僕らは兵器だ。

自らが望んでいないにせよ、機械化兵士になるのは運命だったのだ。最初は運命に抗おうと、自分を逃がしてくれたヒズミの元に入った。

戦いの日々である事に変わりは無かったが、それでも自分自身の為に戦える。

この歪んだ世界を壊す。それがギアの戦う意味であり、存在価値であり、生きる意味であった。


けど――


「……いや、考えるのは後にしよう」

今、ギアがすべき事は捕虜の救助。それ以外の事は後回しだ。


絶対防衛線を越えてはいるが、軍事基地にはまだまだ厳重な警備が施されており、単独で突発するのは不可能に近い。

仮に突発できたとしても、正面から侵入するなど愚の骨頂である。


ならばどうするか? ギアが考え付いた方法は、機械化兵士が大量に配備されたこの基地の特性を逆手にとることだった。

機械化兵士は最重要機密であり、一般の兵士の使う出入り口は当然使うことができない。

前回の戦闘では、次々と敵の機械化兵士が出撃してきた。その事から、"絶対防衛線付近には、機械化兵士専用のハッチがあるのではないか"という結論に至った。


ならば、そのハッチからギアが侵入すればよい。これが最も効率的で、安全な方法……なのかもしれない。


「IPAPエンジン、起動」

呻くような声で言った瞬間、ギアの右眼の視界が数字の群れで埋もれた。

IPAPエンジンが、ハッチのおおよその場所を算出しはじめたのだ。ここでの戦闘の記憶に直接アクセスし、そこからハッチのおおよその場所を測定する。


「ッ!! ぅぅぅぅぅ……ッ」

当然、これには脳に物凄い負荷を掛ける。

激痛、では表現しきれないだろう。耐えきれなくなり、ギアはその場に蹲る。

声を出したら、バレる。だから、服の裾を思いきり噛み締める。


「はぁ、はぁ……。もう少し、先にあるのか……」

数十秒経って、ようやく痛みが治まり、位置の特定も完了した。

数字の群れはなくなり、視界もクリアになった。


「見つかる可能性は低いな……」

念のため中腰で走り、目標地点を目指す。

ガチャガチャと、銃とスプリングを繋ぐ金具が鳴る。

誰も気付きはしないだろう。だが、鳴る度に見つかるのではないか、と不安に駆られる。

と、同時に、ギアは不思議な興奮を覚えていた。身体中の血液が沸騰するかのように熱い。だが、それが不思議と心地よいのだ。


「……ここか」

ハッチがある場所は、周囲の地面と溶け込んでいるが、しかし意識して見るとそこだけ不自然に色が違っていた。


「これくらいの材質なら、拳でいけるな」

敢えてギアは、利き手とは反対の左手を振り上げ、歯をきつく噛み締める。次の瞬間、


「っっっ!!」

拳で地面を粉砕した。

全力の一撃だったため、ギアの左指の何本かはぐちゃぐちゃに潰れるか千切れ飛び、腕に仕込まれたセンサーは脳の信号を正しく受け取らなくなり、時おり不気味な虫のような動きを繰り返した。

無機物でできているのにも関わらず、その不気味なまでに生物に近い動きは非常にグロテスクであり、得たいの知れない嫌悪感をギアに抱かせた。


ギアが左腕を犠牲にしてまで殴った場所は案の定、土ではなく鋼鉄でできたハッチだった。

破片が四散し、人一人分ならば侵入できる程度の穴を開けると、中には深く、どこまでも続くかのような闇が広がっていた。

機械化兵士の明るい場所での可視範囲は百メートル程度。光増幅器を使えばその半分以下。そしてハッチの中に入れば、月明かりは届かなくなる。流石の機械化兵士と言えど、自ら光を生成することはできない。正に、"一寸先は闇"状態だ。


「…………」

だからギアは、入り口前で内部構造を眼に焼き付けることにした。ハッチの内部はエレベーターのような構造になっているようだ。その証拠に、太いワイヤーが数本、ここまで伸びてきている。幸いにも、ワイヤーのある部分は破壊せずに済んだ。エレベーターのようになっているということは、機械化兵士が"収用"されている場所は地下にあるということになる。


「よし、潜ろう」

左腕は制御するので精一杯の状態だが、ワイヤーを伝って降りる程度ならば支障はないだろう。

怖じ気づくと失敗する。だから少年は、意を決して穴のなかに飛び込んだ。

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