闇の組織
「それにしても今時どうやったら車に轢かれるなんてことができたの、愛ちゃんは?」
キッチンで軽快にネギを刻む愛子に聞いてみた。
「それがね、自分でもよく分からないのよっ」
「やっぱり記憶にも障害が出てるんじゃないか!?もう一回病院行こうよ。」
「そうじゃないのっ。あたし歩道を普通に歩いてただけなのよぉ!」
「そんなことないでしょー。周りに人はいなかったの?」
「そのときはたまたま、いつも人通りの少ない道を歩いてたのよ。あのーあそこっ、葱山公園沿いの一本道ねっ。」
「変だなぁ…」
そのとき警察から連絡が来た。
聞くところではなんと、愛子を轢き逃げした車が事故防止措置を故意に無効化された改造車であり、おまけに盗難車で、乗り捨てられていたのが発見されたというのだ。その運転席には意味深にネギが残されていたという。
「衛星からの映像でたしかにこの車が奥さんをはねたことが確認されました。しかし運転手がどこから来て、どこへ行方をくらませたか、映像からはさっぱり分からんのですよ。誠に奇妙なことに、その映像上、運転手は突如現れて奥さんをはねるとゆっくり消えていくように見えるのですな…そうです、まるでネギが生えたり、消えたりするように…」
「そ、そんな馬鹿なことあるはずないじゃないですか!」
随分とおかしな喩えをするなと思いつつ怒鳴りながらも、俺には心当たりがないではなかった。
やつらが…来たのか…?
そうだとすれば、警察には愛子を守れない。
愛子をやつらから守れるのは俺だけだ。
「愛ちゃん、ちょっとこっちにおいで。抱きしめてあげるから。」
「いきなりなあに?いまお料理作ってるのにぃ?」
そう言って振り向いた愛子は青い長ネギになっていた。
「やつらが来たああああああああ!!!」
俺はベッドから飛び起きた。
その傍らにはネギの小皿を片手に、不敵な笑みを浮かべた愛子がいた。
こいつは俺の嫌いなネギのにおいを睡眠中に嗅がせていた!
「こうすると嫌いなものも食べられるようになるって聞いたのよっ?」
ちなみに前日の事故の原因は愛子のエキセントリック飛び出しが原因だった。