覚醒
「ただいまー」(帰宅が遅れたので小声)
「あなたっ、お帰りなさーい!聞いて、聞いて!今日のぞみが覚醒したのよっ!」
情報局員として、きわめて厳重なセキュリティ防壁によって守られた国際連合のデータベースまで駆使して、テロ組織や犯人の当たりを付けようと試みても、何も得るところがなかったし、何か握っている様子のアケミにもはぐらかされて、その日の帰宅時には前日の徹夜でクタクタだった。
あれだけの事件について当局が事前に何も把握せず、また噂を伝えてきたアケミも何も知らずにいたとは果たして考えられるだろうか・・・?
「おま、どうした!?w」
見ると愛子の髪型がアワビさんヘアーになっていたので、むしろこっちの方に驚いた。
ちなみにアワビさんというのは100年以上前から日本人に親しまれてきた超ご長寿番組で、奇抜なヘアーをしたアワビお姉さんがその主役です。
「ほら、この映像を見て!たってるでしょー?たってる、たってる!うはwたってるわ!今日初めてのんちゃんが立ち上がろうとしたのよっ!」
「ああ、それが覚醒ね。健康に育ってホントに良かったね。のぞみはまだ起きてるかな?」
「さっき眠っちゃったわっ」
「そうか、また録画しておいてね。…ところで、お前の髪型はどうしたの?w」
「これね…また実験が失敗しちゃったのよっ。一発ドカンとねっ」
またこのノリが始まった…!
多分愛子は仕事に疲れた俺を笑わして、励まそうとしてくれてるんだと思うけど、さすがに今のはちょっと笑えなかった。
個人的に爆発テロを連想してしまったからだけど、そのことをあえて愛子に伝えて場を白けさせるつもりはない。
「愛ちゃんも覚醒したんだねw」
幸福な夕食を済ませて、ゆっくりと湯船に浸かり、暗い寝室で先に愛子が眠っているベッドへ、二人を起こさないようにそろそろと忍び込む。
非エリートの俺の帰りが久々に遅くなって、時間は午前2時だ。
「あなた、今日も一日おつかれさまでしたっ」
「うん、お疲れさま。悪いけど明日も朝早いから、もし眠ってたら起こして。それじゃおやすみ。」
とうとうあの続きに取りかかるべき時が来たか・・・
愛子とのぞみの覚醒を見て、俺も過去に刻印された古傷にもう一度向き合わなければならないと思った。
しかしそのことでこの二人にどんな運命が待っているか俺はこのときまだ知らなかった。




