回想の終わり
「あら、のんちゃん大丈夫よーっ」
「近日中、M市に近づいてはいけない」という職場の噂に悪い予感を覚えた俺が、この問題に深入りするか決めかねていた矢先に、政府から緊急速報命令が発令され、ひとりでに起動し始めたテレビが、M市の爆発事故と次なるテロ予告で、全国民を恐怖の渦中に招き入れた、夕食時の回想がこれまでの物語だった。
「よしよし、いい子いい子」
生後1ヶ月の女の子である望がなかなか泣き止まなくて、新米ママとなった愛子がおっぱいをあげたり、おしめを換えたり、抱きかかえてあやしたりする様子を、俺はぼんやりと眺めていた。
2085年に逮捕されて腐った日々を送っていた俺が、愛子と出会った2087年から、情報局での勤務を始めた同年を経て、結婚した2089年まで実に色々なことがあった。
この幸福な日常はもはや終わってしまったのだろうか?
それともこれから終わろうとしているのか?
あるいは今や終えられなければならないとしたら…?
もしもこのまま日常が続いていくとしたなら、俺はこの回想の続きに幸福な1ページを書き足して行くだけで良い。
ただそれだけでいいんだ。
だけどもしもこの日常がすでに終わっている、あるいは終えられなければならないとしたら…俺はこの回想の記録をすべて破り捨ててしまわなければならないときが来るかもしれない…
これまでの日常は過去の回想でも繰り返された。
悪いことを考えていれば、悪いことばかり起こる。
反対に良いことを考えていれば、良いことが起こると言われるのはそのためだ。
それじゃあ、幼くしてネガティブ・シンキングをほとんど必然的に強いられてきた人たちは、運良く持ち直すことがあっても、最終的にはやはり幸福になれないということなのだろうか…?
「ほら見て、望はぐっすり眠っちゃったわよ。ちょっと冷めちゃったけど夕ご飯にしましょ?」
「あ、ごめんごめん、美味しそうなハンバーグだなぁ。」
「それハンバーグじゃなくて、揚げ豆腐よ?」
「!?」
愛子の声が俺を空想から救ってくれた。




