新しい顔
「愛子ちゃん、実はいままで黙っていたことがあるんだけど…聞いてもらえるかな?」
付き合って3ヶ月のことである。
その日は午前中から俺の部屋で二人で映画を見たりしていた。
愛子と懇ろになるにつれて、隠していた自分の過去をどうしても話してしまいたい気持ちが勝るようになってきた。
それは共犯者を求めるような心理であり、同時にまた悪人として善人に憧れるような心理でもあった。
「どうしたの?」
訝しがるよりきょとんとした愛子。
静まり返った部屋の中で、二人正座して向かい合った。
「実は二年前の2085年に俺は逮捕されてるんだ。ハッカーやってたんだよ俺。幸い罪は軽くて、いまは執行猶予中。黙ってて本当にごめん。これで愛ちゃんが俺を嫌いになっても仕方ないと思う。だから答えは今すぐ出してもらっても構わないよ。」
「そんなことを…いったい何をしたの?」
「政府や企業の回線にハッキングをかけて、内部文書を覗き見たりしてたんだよ。これだけでも犯罪なんだけど、密約に関する情報なんかを偶然見つけてしまって、バラまいた。俺はまあこの社会ではバイトくらいしかできないだろうな。」
「じゃあなんでそんなことしたの?」
「まあ一番は好奇心だろうね。それでヤバいとは思ったけど、どうしても公開せざるをえなくなった。不平等条約だったんだよ。損するのは何も知らない国民だけだっていうような内容さ。」
愛子は真っ直ぐに俺の目を見つめていた。
「それであともうひとつ隠してることがある。そのときの弁護士に勧められて顔を義顔に換えてるんだ。いままで何もなく生きてることを思えばまあ大袈裟だったんだけど、脳を銃弾から守るためであり、単純に変装のためでもある。ただし俺の場合には、ほとんど元の顔と同じビジュアルで作ってもらった。どうも嘘を吐くような気がして他の顔になることはできなかったんだ。」
「ゆうくんと居るのすごく大変そうだけど…あたしそう簡単に嫌いにはなれないよっ?話してくれて嬉しいくらいだもん…でも悪いことは反省して、もうしないって約束してほしいの。」
「もうしないよ愛ちゃん。」
心の靄がきれいに晴れて、凝結した愛の雨が胸に降り注いできた。
強く抱きしめると肩越しに愛子は囁いた。
「あたし、その顔素敵だと思うよっ?」




