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第一話 トモダチなにそれ食えるの美味しいの

 ドッカカーン。

 かるーく男子生徒が一名吹っ飛ばされた。

「あいつ弱すぎて練習にもならねw」

 語尾に草はやしながら、イケメン男子生徒が列にもどっていく。うぃーうぃーって言いながらなんか動物的に周りの男子と絡みだす。

 ホイッスルを手にもった体育の先生は、吹っ飛ばされた男子生徒のもとへいき、頬をぺちぺち叩いた。

「うーん」

 なんとか体を起こす男子生徒。

 そこまでブサイクでもないが、イケメンなわけでもない。特徴なさすぎて影薄くて、いい意味の普通と違って悪い意味で普通で、なんかうっかりファミレスで水とか出すの忘れられそうな感じである。一言で形容すれば『残念』みたいな。

 先生も呆れ顔で、肩を叩き、

「……市田、お前な、トモダチつくらんとダメだぞ」

「あいつトモダチカラ0なんだってー☆」

「うっそありえなーい↑」

 なんていうか現実の会話なのに絵文字つかってるような話し方で女子がいう。

 市田のしょんぼりするようすに、さすがに先生もフォローする必要を感じたのか、

「お前らも騒いでないで、出席番号順に組んで練習はじめろー」

 と一喝した。

 生徒たちはダルそうに動きだし、二人一組になって、組みあいをはじめる。

 前年より必修化された『武道』の時間である。

 先生は、市田に向き直り、

「市田、お前、トモダチつくらないと、このままだと高校進学すら危ういぞー」

「……」

 市田は、うつむいたまま無言で立ち上がった。

 そのままふらふらと列にもどっていく。

「あいつあんなだから……」

 先生は嘆息した。進路指導もなかなか楽じゃない。とくにこの『トモダチカラ』システムが導入されてしまってからは。


「いいんだ、どうせ自分はひとりで生きていくんだから。親のすねかじり終わったあとは、生活保護コース。これ最強っしょ」

 市田は部屋に戻ってつぶやいた。むろん、市田は帰宅部である。各部にはたいてい入部条件に一定のトモダチカラが設定されているのだ。

「トモダチカラなんてクソシステム、どこのどいつが考えたんだよ、あーあ」

 市田は左腕にはめられた、腕時計のような機械を見つめた。

 そこには、トモダチカラ:0、レベル:-350とデジタル表示されている。



 トモダチカラ・システム――コミュ力アップを目的に作られたシステムである。

 トモダチの数×トモダチの平均レベル(レベルは、1社会貢献度、2コミュ力、3見た目、4運動神経、5学力の5項目によって決定される)によってトモダチカラが決定され、それがそのまま内申点、調査表、就職に結びつく。教師の恣意の排除、学歴差別の除去、面接での嘘などを簡単に見破るためのもの、……と説明されているが、本音は定かではない。なかには国民監視システムだとか危険人物発見システムだとか呼ぶ人間もいる。

 市田は現在トモダチカラ0、レベル-350。一人も友達がいない稀有な中学3年生である。笑い事でなくこのままだと進学も就職も危うい。というか絶対不可能だ。たいていの学校がトモダチカラ100以上、求人情報は最低200から募集がかかっている。それ以下だと廃校寸前かブラック企業と決まっているのだ。

 トモダチカラ100自体は決して難しいものではない。レベルによるが、友達と呼ばれる人間が5人程度いればクリアできる。たとえば、5人×平均レベル25=125でトモダチカラ100をクリアできる。市田のようにレベルがマイナスになってしまっている人間もなかなか珍しい。レベルが0ならともかく、レベルがマイナスだと、トモダチになってしまうと逆に自分のトモダチカラが下がってしまうため、なかなかトモダチになってもらえないのだ。


「あんた」

「おうふっ」

 気づけばふすまがソロリとあけられ、市田の母が顔をのぞかせていた。

「なんかさっき不吉なひとりごとが聞こえたけど」

「ハイ」

「高校入学できなきゃ家からたたき出すかんね」


 え。


「だからがんばってトモダチなってもらいんさい」



 ……。

 お母様それはもう虐待ですッ!



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