「金貨一枚でどうしろと?神様」
1.「金貨1枚でどうしろと?、神様」
旅をしていればお金はなくなっていく。だから、国や町に入ってから不要なものを売って、なんとかしている。いつもそうだった。
しかし、今回は違った。不要なものを売り、新たに必要なものを購入した。ここまではいつもと変わらない。問題は、今の状況だった。
「金貨一枚でどうしろと?神様」
男の旅人が呟いた。
いつもと同じ流れで新しいものを購入したら、お金がなくなった。
いや、まだ金貨が一枚残っている。無一文よりはまだいい方だ。
だが、今の状況もまずいことには変わりない。
「ちょっと、どうするつもりなのよ!」
男の旅人と一緒に旅をする女の人が言った。
今は夕暮れ。そろそろ夕食時だ。
町に入ったばかりの二人は、当然お腹がすいている。が、金貨はたったの一枚だけ。
「今考えてるよ」
「これから宿も探さなきゃいけないのに、金貨一枚じゃどうにもならないじゃない」
とりあえずふらふらと歩いている二人。都合のいい店など、一件も見付からない。
それもそうだ。金貨一枚でどうにかなる店などあるはずがない。もしあるなら、今すぐ紹介してほしいくらいだ。
「……宿は、まぁ諦められるけど、町にいるのに携帯食料なんてごめんだわ」
「俺もだ。ってか、町にいて貴重な携帯食料を食ってたら、道中が大変じゃねぇか」
「そうね。とにかく、今の状況をなんとかする方法を考えましょう」
「そうだな」
二人は、頭を働かせながら賑わう道を歩いた。
しばらく歩いていると、賑わう道には不似合いな店があった。
明かりがついているのか疑問に思わずにはいらろないほど暗い店内。店に置いてあるのは、怪しげな壷やらいかにも古そうな楽器など。その店は、骨董屋だった。
「ちょうどいいわね」
骨董屋を見付けた女の旅人が呟いた。
「何がだ?」
「レイト、ちゃんと考えてた?」
「考えてたよ。んで、何がちょうどいいんだ?」
「骨董屋よ」
女の旅人は、右側にぽつんと佇む骨董屋を指差した。
「アナレア、お前、骨董品とかに興味あったのか?」
レイトと呼ばれた男の旅人が、旅仲間の女の人―アナレアに言う。
「ないわよ」
すると、アナレアはレイトの頭を叩き、すっぱりと否定した。
「じゃあ、なんでだよ」
「まだ判らないの?」
アナレアは、呆れたように言う。
「あぁ。俺、頭悪いから」
「あっそ。あの骨董屋に、楽器があるでしょ?」
「あぁ、あるな。……そういうことか」
「やっと判った?」
「あぁ! 買ってこいってことだな? でも、今は買えないぞ? 金貨一枚しかないから」
レイトの様子に、アナレアは大きな溜め息を吐く。
「あのねぇ」
「冗談だって! 借りて来ればいいんだろ?」
レイトは、そう言いながら骨董屋へ歩き出した。そのあとを、アナレアもついていく。
「判ってたならさっさと行動してよ」
「あ、やっぱり気付いた?」
「いつもそうじゃない。頭悪いふりして」
「その方が、いろいろと都合がいいんだよ。あ、俺、演奏も歌もできねぇから」
「知ってる……」
「すいませーん。ちょっと楽器貸してもらってもいいですかー?」
骨董屋の前に来ると、レイトが店の主であろう年寄りの男の人に声をかけた。
「あんたら、旅人かい?」
「えぇ。んで、ちょっと楽器借りてもいいですか?」
「どれを借りたいんだい?」
「アナレア、どれ借りるんだ?」
「そうね……これとか、借りてもいいですか?」
アナレアは、置いてある楽器のうちの一つを指差した。
「いいですよ。でも、楽器を借りて何をするんで?」
「楽器を借りたら、することは限られてると思いますよ」
アナレアはそう言うと、借りた楽器を手にとり、演奏し始めた。
アナレアが弾く楽器からは、美しい音色が流れ出す。すると、道を歩いていた人が、ちらほらと足を止め出した。
少し人が集まったところで、アナレアは歌を歌い出した。
優しいソプラノで紡がれる言葉。次第にアナレアの前には人だかりができる。 それを横で見ていたレイトが、小さな箱をアナレアの前に置いた。すると、感動した人達がお金を入れてくれた。
アナレアは、続けて二曲ほど歌った。
歌い終えると、アナレアの前に置かれた箱にたくさんのお金が入っていた。
「ありがとうございました」
アナレアは微笑んで、丁寧にお辞儀をした。周りからはたくさんの拍手が送られた。
「楽器を貸していただき、助かりました」
人が少なくなったころ、アナレアは楽器を返した。
「いや、こちらこそ素敵な歌をありがとう。よかったら、この楽器をもらってはくれませんか? この店に置いておくより、あなたに使ってもらった方が、楽器も幸せでしょう」
「もらっても、いいんですか?」
「えぇ。もらってやってくださいな」
「じゃあ、お言葉に甘えて……。ありがとうございます」
金貨一枚だったが、アナレアのおかげでなんとかなった。
このあと、二人は宿を探し、夕食をとった。
「いやー、アナレアのおかげで助かったな!」
「まあね。楽器ももらっちゃったし、結構いい日だったわ」
「明日は、町でも見て歩くか」
「そうね」
fin.
H24 4/6
…ひとやすみ…
長くなったうえに、なんかまともな話になりました。でも、書いていて楽しかったです。
ちなみに、キャラクターの設定はありませんw名前だけです。でも、この二人、気に入ったので設定つくるかもしれません。