初陣
第七艦隊に配属されたミキが実戦に出るのはそう遅くはなかった。
* * * *
レーダーが点滅する。
敵はMig-21だと思われる。
安価で単発小形軽量の戦闘機だ。
敵がミサイルを撃ってきた。
心臓がひっくり返る
息が上がる
チャフとフレアを撒いて上昇
隊長機も同様
初めて殺しかけられた
半ロール
そのまま背面に入れる。
怖い
上…と言っても実際は下…を見る
2機のミグがブレイク
急降下で追う
右へ機首を向ける
腹に力を込める
苦しい
HUDの中にミグを捉える
少し、躊躇する
ROEには違反してない
火器管制はロックオンを終え
|兵装選択〈アームスイッチ〉はサイドワインダーにセット
“殺すため”の準備は既に完璧だ
だが、むしろ完璧かつ迅速過ぎた。
ロックオンしてから撃てる状態になるまでの‘殺す’ことを考える時間が少なすぎた。
パイロットの許可
──つまりは、トリガを引くだけ──
で、敵は木っ端微塵になる。
そこに選択はない
そのなかでミキは訓練の条件反射でトリガを引いた。
サイドワインダーは排気熱を追って
しかしそこに命を考える猶予はなく
ミキを載せた完璧に作られた火器管制によって完璧に作られた機体から完璧に作られたミサイルが完璧に敵機を木っ端微塵にした。
そこに選択はない
キャノピィは赤く染まり
あちこちから煙が出て
キリモミしながら
墜ちていき
スローモーション
すべてが四散
命もジェラルミンも
そこに格差はない
煙が黒い滝のようで
そこには何もない
正義も悪も生も死も
そこには何もない
ミキが人を殺したことに気づくのは煙が流れていったあとだった。