電話
基地に着陸した。空母もあとから寄港するだろう。
自分のほぼ必勝パターンだった機動を崩された。
F-15。旧型とまでは言わないが、流石に型落ちに近くなってきている機種だ。
太陽に機首を向けて、ストール・ターンで相手の後ろに付く。少なくともあそこまで正常に、冷静に反応できるパイロットは初めてだ。母さんだったらできるかもしれない。でも全くインターバルを置かずに次の機動に移ることができるパイロットは意外と少ない。
旋回も、唯最高Gをかけて相手のシックスを狙うのでは無く、次の機動に移れる最低限のエネルギーを残しての旋回。一つ一つの技の連続ではなく、全てが一つのラインになる滑らかな機動。特に最後のシザース。
まるで後ろから私を見ているように完璧なタイミングだった。
一瞬、息をついた。
一瞬、力を緩めた。
一瞬、視界がぶれた、
そのごく僅かな一瞬をついて、相手はスナップ・ロールで後ろに滑り込んだ。
私はどうだった?ストール・ターン、クイック・ロールなどの一つ一つの技に頼りすぎではないか?
それに比べて、相手は正攻法、マニュアルに載っていそうなくらいに完成された技を滑らかに繋げ、一つの機動として完成させた。
最後の最後にスナップ・ロールで決めてきた。その一発だけに全てをこめて、まるで最初から終着点がそこだったかのように。
何回考えても勝てる気がしない。間髪いれずにブレイクされて、また正攻法に引きずり込まれる。
母なら答えられるだろうか。ポケットに手を入れ、携帯の電源をつける。
起動する僅かな時間さえもどかしかった。
「もしもし……ミキです………ううん。違う…………そう」
久しぶりに聞く母の声。敵機を撃墜した時、どうして母に電話しなかったのかが不思議に思えてきた。
「あの………だけど……うん。わかった」
通話を切る。次は負けないようにしよう。そうおもえた。




