混沌
『糞っ。撃墜された!』
ウェルの声。そんなに早く?まだ敵は遠い。対向発射できるサイドワインダーの距離でもない。
え?こっちにロックオンは来てない?機関銃?
引く。危ない。一瞬だけロックオン警報がなる。対向戦しかやらなかったから?
全く気付けなかった。どうして?
すぐ後ろに四機。こっちは?殆ど前方へ行ってしまった。Gで声が出ない!
残ったのは三機。編隊を組みなおす暇は……無い。
すれ違う。
逆に切り返す。シザースだ。
エア・ブレーキ。相手が前に飛び出した。
速度が無い、後ろの敵も張り付いてる。バレル・ロール。
アフター・バーナー。
ノズルで燃料が噴射され、爆発的に圧力が上がる。
ドンという衝撃。舌が喉に押し込まれそうになるようなG。
F-15はエンジン推力が高い。でもレスポンスなら負けない!
右に切る。
フラップ。
フルアップ。
降下旋回。
一機上、一機付いてくる。
上昇。
スロットル・ハーフ。
そのまま速度を落として中速旋回。
速度が落ちてくる。
相手も追いついてきた。
水平に戻す。
スロットル・アイドル。
エア・ブレーキ。
フル・フラップ。
一瞬で速度計がすっ飛ぶ。
相手は速度を上げて逃げた。
でも、加速だけなら、レスポンス差で一瞬だけ追いつける。
フル・バーナー。
相手の真っ赤に燃えるエンジン・ノズルが見える。ロック・オン。
サークルの中に入りきらない。機関砲に切り替える。
引き金を引いた。ガン・カメラが記録される。
「スプラッシュ!」
コール。下から来る!どうやって逃げる?
機首はほぼ垂直。
思い切り操縦桿を引く。
コブラ。
ライトグレーの機体が背面に。
主翼が曲がる。
主翼から勢いよくヴェイパーが出る。ミシミシと音が鳴る。
息ができない。もうそろそろ限界かもしれない。
視界の上のほうに黒いカーテンが下りる。
腹筋に力を入れる。今、今ここで失神するわけには行かない。
下のほうに一機。敵?味方?
機首が下を向いた。すれ違う。
シザースを横倒しにしたような軌道が始まる。やっと呼吸ができた。
向こうがループをしたらこちらもループをする、こちらがロールしたら向こうもロールをする。なかなか変わらない。
腕のいいパイロットならここから一発逆転でもできるのだろうか。生憎ミキにはそんな技量備わっていない。
息を吐く。死にそうで、死にそうで。
ここまで来るともう意地の張り合いになる。
気持ち悪い。
吐きそうになる。
でも、やらなければ。
バックミラーに忙しなく動くエレベータ。
高速時にはエルロンよりもエレベータでローリングをコントロールする。
まだ。
まだ、戦いたいから。
まだ、飛びたいから。
スリップ。
少しずつ、減速していく。
できるだけ気付かれないように。
クロスの直後、フラップをフルに出す。
フルアップ。
エア・ブレーキ。
少しずつ近づいていく。
後ろに食らい付く。
ぎりぎり。
ロック・オン。
トリガーを引く。
「ス……スプラッシュ……」
消え入りそうな声でコール。水平飛行に入れる。
息が荒い。
一度エルロン・ロール。
周りに敵はいない。
向こうに敵がいる。そこへ向かう。
向こうに豆粒が沢山。




