猫
意外と人に話を聞いてもらうというのは意外と気が楽になるのだ。昨日と同じところへ行った。
今日は先客がいたようだ。最後の段を降りるとカウンタの端に中年の男が座っていた。薄暗い店内と明るい色のウイスキィがコントラストに見えないこともない。音楽はならない。音がなりそうにないジュークボックスがガムテープで故障中の張り紙を張ってある。
老人は谷田川と名乗った。昨日は名乗らなかった。自分以外の唯一の客である男はこちらを見ない。地上のものに興味はないのだろう。そんな目をしている。自分もそうなっている。自分が冷めるのがわかった。ファイタ・パイロットで生き残っているのは皆そうなのかもしれない。戦いが美しいと思う奴ほど、熱くなる奴ほど、ウェットでやさしく目立つ奴ほど早く墜ちていくのだ。そんな重い奴は墜ちていく。より無機的に、機械的に、冷静に冷酷に残酷に唯じっと相手のミスを誘う。気づいたらさっきから同じパターンをなぞっている。墜とされはしない。墜とされていない。だが体は悲鳴を上げ、呼吸は荒くなっていく。少しずつ焦っていく。ここで冷静になろうとすればするほど焦っていく。ここでミスを犯した奴が墜とされていくのだ。自分も冷徹になっていく気分になった。
ミートパイを頼むと、カウンタの端の男がこちらを向いた。男がこちらを向いた。そちらを向くと、男の表情が驚愕に染まる。
「……猫だ」
「?」
「母親の名前は何だ。」
「は・・・母の名前はフレイです。」
剣幕に押されて答えてしまった。話していい情報だっただろうか。
「クロス・キャットの娘だな…。」
そういうと客は出て行ってしまった。何が言いたかったのかわからなかったし、会話だったのかもわからない。とりあえずミートパイを半分ほど食べて帰る事にした。さっきの言葉について考える。クロス・キャット?何だろう。母さんは確かにすごいパイロットだけどそんな名前はついていなかった。気味が悪い。とりあえずミートパイを食べて外でタクシーを呼んだ。ここへはバスも通らない。




