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 僅かな沈黙を経て、スービィは意味ありげな目でスレッジを見た。

「そこで、だ。俺が依頼人になる」

「……。依頼内容は?」

「情報部の連中が【アースシェイカー】を起動するのを阻止しろ。間に合わなかった場合は【パペット】どもより先に――街を破壊されるよりも先に【アースシェイカー】を破壊しろ」

「話にならねえ。賞金稼ぎの仕事内容じゃないぜ」

 スレッジはおどけた仕草で天を仰いだ。

「本気にしたくない気持ちはわかる。だが、情報部員と【パペット】どもをけて【アースシェイカー】に近づけるのは、お前をおいて他にいない。

 おっと、俺はデジルとは違うからな。武器は銃一挺とエネルギー・バレット二本だなんてケチなことは言わないぜ」

「おいおい、俺が引き受けることが前提みたいな話の進め方してんじゃねえよ」

 スービィは指を三本立てた。

「三万ローエン出そう」

「ヒュー!」

「明日決行だ。質問があれば今夜中に聞いてくれ」

「待て待て待て! まだ受けるとは――」

「やらないのか」

「……やるぜ」

 口端を吊り上げたスービィが差し出した手を、スレッジは強く握り返した。

 話が一段落しそうになり、ミリィがあわてたように付け加えた。

「あ、あとさ! カナさんも助けてあげられないかな?」

「そう言えば、ブースの彼女はどうして情報部に連れて行かれたんだ?」

 スービィは再び手に持っている拳大のユニットを示して見せる。

「まあ情報部としては、証拠も証人もきれいさっぱり消えてくれた方が都合がいいだろうからな」

「じゃ、カナとブースを会わせた上でまとめて消すつもりなのか!」

「だから、助けてあげてほしいんだ」

 懇願するミリィを見下ろし、スレッジは聞いた。

「カナって女と知り合いなのか」

 ミリィは首を横に振った。

「ほれ。電話だ」

 突然スービィがスレッジにケータイを差し出した。

「?」

 耳に当てると、聞き覚えのある声が話しかけてきた。

『おう、スレッジか。カナを助けてくれ! まとまった現金はないが、ボトル一年分を無料でキープさせてやる!』

「キ……キャプテン!?」

 電話の相手はスレッジの行きつけである『キャプテン・クック』の店主だった。

『賞金稼ぎに頼むような仕事じゃないことくらい判ってる。だが、他に頼めるヤツがいないんだ……。カナは俺の……、俺の娘なんだ!』

「なにぃ!」


 キャプテンがまだ二十歳の頃のことである。当時つきあっていた女性が、キャプテンの航海中に出産していた。だが、彼女は理由も告げずキャプテンのもとを去っていったのだ。

 出産の事実を知らされたのはつい二年前――カナが成人してからだったとのことだ。亡くなってしまったカナの母親の遺言に従い、弁護士名義でキャプテン宛に手紙が届いた。カナの写真と母親のメッセージが入っており、カナは実父が生きていることを知らないとのことだった。因みに、キャプテンに結婚歴はない。


『今さら親だなどと名乗るつもりはねえ。気付いたときには大人になってたわけだしな。だが、俺の子には違いねえんだ……』

 スレッジは溜息をひとつつき、素っ気なく返事をした。

「なあ、キャプテン。あんたの店の安酒、そんな大量にキープしたところで悪酔いに苦しむ日が増えるだけさ」

『頼む、スレッジ』

 キャプテンの声が懇願調になった。

「……半年だ」

『は?』

「ボトル半年分でいいって言ってるんだ」

『……! すまねえ、恩に着る!』

 終話ボタンを押したスレッジからケータイを受けとったスービィが教えてくれた。

「今は詳しい説明を避けるが、ミリィのやつ、昔っからキャプテンには随分遊んでもらっているらしいんだ」

「なに? キャプテンって子ども好きだったのか……。そりゃ意外だ」

 思わず見下ろすスレッジと視線が合うと、ミリィは閉じるほどに目を細めて笑顔を見せた。


     *     *     *


 陸軍情報部は強大な組織だ。正直、どこまで戦えるかわかったものではない。

 背にミリィの体温を感じながら、スレッジは初めて責任の二文字を意識していた。いや、実はもっとシンプルだ。

(街がどうなろうが知ったことじゃない。だが、ミリィだけは守ってやるぜ!)

 口に出しては、別のことを言ってみる。

「失う物は何もない。三万ローエンのためにがんばるだけさ」

「嘘ばっかり」

 一緒に過ごしたのはわずか一晩だが、スレッジの単純さは既にミリィに見透かされている。

「何か言ったか」

「なんにもー!」

(がんばってね、スレッジ)

 ミリィは、スレッジの背中にきつく抱きついた。

「早速お出ましだ! 少し跳ねるぞミリィ、そのまま力抜くなよっ!」

「うん!」

 四体の【パペット】が視認できた。スレッジは前方を睨む。普段からあまり目付きがいいとは言えないスレッジだが、その三白眼は視線だけで相手に穴を開けるかと思われるほど鋭さを増した。

 立ちふさがる【パペット】どもを、スレッジはエアバイクの前輪でなぎ倒しては進んでいく。

「おらー! どけええ!」

 二体、三体、四体! ひとまず、見渡す範囲に障害はなくなった。

 目的地はネオジップ最北端の郊外。距離は約二十キロ。

 その場所に【アースシェイカー】が眠っている。軍による作戦開始時刻は午後三時、現在時刻は午後二時半。巡航速度四十キロ以上で走れば間に合う計算だ。

 バイクの整備と、ミリィによる最適経路の割り出しおよび“電波の傘”ポイントの仕込み。加えて、直前になってからの作戦変更の有無を監視するためのハッキング。

 さらに、こちらの動きを察知され、必要以上に厳重な対策をとられないようにするためにもあまり早くから【アースシェイカー】に近付くわけにはいかない。

 それらを勘案した上で、行動開始がこの時間となったわけだ。だが。

「余裕!」

 一陣の風と化し、スレッジのバイクは路上を滑っていった。

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