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 待つ以外にすることがない。

 なぜ奴なのだろうか。一体、奴のどこが他の奴と――俺と違うのだろうか。

「運命……か」

 柄にもない言葉を吐き、苦笑する。

「全部教えておいてやっても良かったんだが、そうすると奴のことだ。意識しすぎて、肝心なところで失敗するかも知れん」

 それがスレッジの性格に対するスービィの評価である。

「若造とガキを現場に送り出しておいて自分は高みの見物だなどと、不本意だぜ。情報屋は安全な場所から情報を売るのが仕事、ってか」

 ふと気付くと貧乏揺すりをしている自分に気付き、苦笑する。

「だが、あてにしてるぞ。きっちりとフィールド能力を使いこなしてみせろ」

 スービィは椅子に深く座り直し、目を閉じた。


 作戦開始時刻の直前、無線機が着信を告げた。

『ミスター・パーマー。コーエンだ。ブース・ノイルがアイクの車に便乗。走り去るぞ、どういうことだ?』

 ユキからだ。噛みつくような勢いの、鋭い声である。

 スービィは素早く応答する。

「ふん。どうやら最初からペイジは“荷物”だけじゃなく、ブースごと持っていくつもりだったようだな」

 それさえ想定内だと言わんばかりの冷静な応答だ。

『奴ら、座標〇・〇・〇に向かってる。このままではピックアップが困難だ』

「ユキ。ブースにはそれなりの“荷物”を持たせてある。もともと、ブースたちのピックアップはオプションに過ぎん。本来の任務を優先しろ」

 どうやらユキは、カナをなんとかして助けたいようだ。任務抜きで会い、話をしてみたいのだろう。

 軍隊への入隊を目指してきたユキとは百八十度違う人生を送ってきたのであろう、カナ。カナは一般人にしては油断のない注意力の持ち主だが、それはひとえに水商売での経験によるものだ。

『了解だ』

 通信が切れた。任務に私情は禁物――言外に漂う心の声まではっきりと聞き取れるような返事だった。

 スービィは目を閉じ、口端を吊り上げる。


 十四時五十九分。

 無線機が雑音を立て、スービィはスイッチを切ろうとした手を止めた。

 次いで、無線機は兵士同士が叫び合う声を拾う。

『ミスター・パーマー! スレッジが――、スレッジのバイクが爆発した!』


     *     *     *


 スレッジが円筒形のユニットのレバーを引いた途端、それが起きた。

 閃光と轟音も束の間、世界が暗転したのだ。

 地に足がついていない。頼りない浮遊感に不安を募らせる。

 暗闇と無音の世界だ。視力と聴力を失ったのか。

 いや、それより――。

「俺は死んだのか?」

 早鐘を打つ鼓動を自覚する。

 息苦しさと発汗の生々しさに己の“生”を確認したとき、何者かが呼びかけてきた。

 それは耳に届く声ではない。頭の中に直接響いてくる。

「誰だ。俺はスレッジだ」

 自分の声が鼓膜に響く。聴力は回復しているようだ。

 はっきりとした言葉が伝わってくるわけではない。だが、この場にいるかどうかさえわからない存在が語りかけてくる。

 それをスレッジは確実に感じていた。穏やかで友好的な、温かみのある意識だ。個人のようでもあり、集団のようでもある。姿の見えぬその存在が、何かを伝えようとしている。

 スレッジは頭で考えるのをやめ、直感や感情といった感覚的な部分に身を委ねた。

「俺に何をさせたいんだ?」

 宇宙服。技術の進歩。宇宙空間を移動する大船団――遙かな未来のイメージだ。

 札束。武器。椅子。密談――現在のイメージ。

「大体わかった。俺が【アースシェイカー】を止めてやる」

 頭に響く声が聞こえなくなり、世界がもとの岩場へと戻っていく。視力が回復した。虹のような七色の光が、自分の周りで輝いている。

「ミリィはどこだ! ミリィ!」

「ああよかった! 僕ここだよ、無事だったんだね、スレッジも!」

 ほぼ正面にいた。だぶだぶのTシャツとジーンズ、逆さにかぶった野球帽からはみ出す赤毛。

 スレッジがほっと胸をなで下ろしていると、ミリィが正面から抱きついてきた。

「ん? 体温を感じない……」

「身体にフィールドを纏ってるんだ。どうやら僕らにはフィールドを使いこなす能力があるらしいよ。スービィがそう言ってた」

(スービィの野郎め)

 初めから、俺たちがこうなることを予測していたのか。それならそれで、知っていることを全部伝えておいてくれれば良かったものを。

「ミリィ。俺は、誰を信じれば良い?」

 ミリィはほんの一瞬だけ困ったように視線を泳がせたが、真っ直ぐにスレッジの目を見上げてきた。

「スレッジが信じたい人を」

 今すべきことは身内を疑うことでも文句を言うことでもない。周囲を見回してみると、視界には怪我をして気絶している兵士の姿があった。

「よし、仕事だ、ミリィ!」

「うん!」

 嬉しそうにうなずくミリィ。彼女が軽く指を振ると、監視カメラがひとつ破裂した。周囲で輝いていた光が消える。

「なるほど。フィールドにはそんな使い方もあるのか」

 スレッジは兵士を抱えると、なるべく格納庫の入口から離れた場所に横たえた。

「なんだこれ。まるで重さを感じないぜ」

「スレッジ急いで! 【アースシェイカー】が起動しちゃうよ!」

「おう!」

 スレッジとミリィは格納庫へと飛び込んだ。


     *     *     *


 作戦開始一分前だ。この作戦において、ペイジ中佐が直接指示を出す必要はない。

 装甲車の中でモニターを眺めていたペイジ中佐は口元だけを歪めて笑う。

「何をしたかったのか知らんが、バイク一台で突っ込んでくるとは愚かな」

 モニターには、爆発炎上するバイクが映っている。

 しかし。


 十秒経過。十五秒経過――

「妙だ。なぜ輝きが消えん。燃えているわけではないのか?」

 運転席のアルファ4がペイジ中佐の指示を仰いだ。

「不確定要素が取り除かれるまで、作戦を延期しますか?」

「何を言う。変更はしない。予定通りだ!」

「はっ!」

 助手席の兵士が端末を操作し、アルファ4が通信機で呼びかける。

「ベータ1へ。アルファ4だ。【アースシェイカー】起動、三十秒前! 総員、座標〇・二・二へ退避!」

『了解!』

 モニターに、天蓋を岩場に偽装した格納庫から離れていく兵士たちが映る。

 バイクの破片が散らばる爆発地点では、いまだに輝きがおさまらない。ペイジ中佐は訝しむ視線をモニターに突き刺した。

 そばには倒れて気絶している兵士が一人。先ほどのバイク爆発に巻き込まれたのだろう。他の兵士たちは怪我人を連れて退避するのを断念し、訓練同様に駆け足で退避していく。

 その様子を映した直後、ペイジ中佐が注視していたモニターが突然沈黙――砂の嵐状態となった。

「何だ?」

「予備のカメラに切り替えます」

 助手席の兵士がペイジ中佐のつぶやきに答え、迅速に沈黙したモニターを回復させる。

 バイクの破片が散乱している地点に、先ほどまでの輝きは確認できない。

 それよりも、倒れていた兵士がいない――、いや、いた。モニターの隅にぎりぎり映る場所まで退避している。相変わらず気絶している。この短時間で自力で這って移動できる距離ではない。

「敵は生きている! アルファ4、格納庫内に【パペット】を突入させろ!」

 ぎり、という音が聞こえた。ペイジ中佐が奥歯を噛みしめたのだ。

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