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車を停めたアイクの正面に、ゲイリーもバイクを停めた。
「ブース!」
急いで降りようとしたカナだったが、車のロックが外れない。
「ねえ、開けてよ!」
助手席で端末を操作しているマークが、手を休めず落ち着いた声で告げる。
「ノイルさん、荷物は持ってきましたね?」
マークはゲイリーに話しかけたのだ。車外スピーカーを使ったようだ。
ゲイリーは大きくうなずき、バイクのタンデムシートに括り付けた箱を身振りで示す。
「オーケー。それを持って、こちらの車の助手席側から後部座席へと回ってください」
ゲイリーは言われた通り、ゆっくりと近付いてくる。
マークは端末を操作しながらアイクに報告する。
「銃器やナイフの類は携行していませんね。丸腰のようです」
「金属センサーでは、銃器やナイフ以外の武器までは検知しないぞ。もっとも、このお嬢さんを連れてくることを条件に、ブースにわざわざ出向いてもらったわけだから……、常識のある奴なら下手に武器を持って来ねえだろうがな」
マークは端末から目を離さず、冷静に告げる。
「いますね、招かれざる客が。左、四十メートル、三人。右、五十メートル、四人確認」
「なに! なんでそんなに近付かれるまでセンサーに反応しなかったんだ」
「電波の傘。こちらのセンサーが奴らに騙されていたようです。昨夜の男も奴らの仲間かも知れません」
アイクに答えた後、マークは苦々しげに続けた。
「単なる強盗だと思って、昨夜の男を放置したのは僕のミスです。想像ですが、この芸術的な電波妨害は奴の仕業かも。すみません」
「何言ってる。気絶した俺を、あんな化け物から救ってくれただけでも殊勲賞もんだぜ。お前は、俺がこれまで組んだどんなベテランよりも優秀な賞金稼ぎだ」
昨夜はほとんど意識のなかったアイクは、マークとスービィのやりとりを覚えていないようだ。アイクは後部座席を振り向いて言う。
「あんたの言う外国の情報部かどうか知らんが、得体の知れない連中が七人くらいで取り囲んでいやがる。このままブースの旦那をあんたの隣に乗せてずらかるぜ」
黙って頷くカナを見て、マークが指示を出す。
「ノイルさんに乗っていただくよう、身振りで伝えていただけますか」
カナは少し考え、ドアのすぐ外まで近付いてきたゲイリーに手招きをして後部座席を指で示した。
ロックが外れる。カナがドアを大きく開けた。
ゲイリーは荷物を持ったまま素早く後部座席に身を滑り込ませる。
ドアを閉めるより早く、アイクは車をバックさせ、タイヤを鳴らしてターンする。
カナの視界に、あわてて物陰から飛び出す兵士たちの姿が目に入った。
「ユキさん!?」
兵士たちのひとりが今朝会ったばかりのユキとよく似ているような気がしたが、遠すぎる。錯覚かも知れない。
兵士たちは車二台とバイク二台に分乗すると、こちらを追ってくる。
アイクが車を走らせつつ、車載無線を操作した。
「アルファ4へ。こちらアイク。ノイルと接触。しかし想定外の敵に追われています」
『こちらアルファ4、了解だ。座標〇・〇・〇に向かえ』
「了解」
* * *
エアバイクに取り付けた防御フィールド発生装置は素晴らしい効果を発揮した。
キャノピー正面に直撃したはずのメタルジャケット弾がひしゃげ、地面に落下する。キャノピーには傷ひとつつかない。
軍の中でも特殊部隊にしか装備されていないという。それを、スービィが用意してくれたのだ。だが、エアバイクに取り付け可能なサイズの制限上、効果はわずかに三分。
次の瞬間、スレッジとミリィは同時に歯を食いしばり、表情をゆがめた。
背後で耳をつんざく強烈な破裂音がして、砕けた小石と砂埃が降ってきたのだ。
「手榴弾だとぉ!」
あれだけの破壊力の直撃を受けては、防御フィールドがあっても安心できない。かと言って、正面突破しようにも待っているのはマシンガンの集中砲火だ。
わずか数十メートルの距離が詰められない。
防御フィールドの残り時間は一分。
【アースシェイカー】が立ち上がるまでの残り時間は二分だ。
スレッジはバイク正面に取り付けた銃を撃つ。麻痺モードで連射。
何人かの兵士に命中したが、効果はない。連中が着ている防弾ジャケットには、ビームキャンセラーの機能もあるようだ。
決断が遅れれば自分もミリィもおしまいだ。ちらと振り向いたスレッジは、こちらへ近付く車の砂埃を見た。
「くそ……、退路も断たれたか!」
足場の悪い戦場で巧みにバイクを操りつつ、スレッジは正面突破を決断した。
「ミリィ! 突っ込むぞ!」
「うん!」
防御フィールドは残り二十秒。
スレッジは頭の中でカウントダウンしつつ、バイクの正面を【アースシェイカー】格納庫へ。
「そこをどけ――」
前輪を持ち上げ、兵士の群れに突っ込んでいく。
さすがに【パペット】とは違い、左右に飛び退る兵士たち。
格納庫への入口が見えた。
残り十、九、八……。
硬いものが転がる音。
スレッジはバイク正面のライト脇に視線を合わせ――、
「んなっ!」
ピンを抜かれた手榴弾が引っかかっていたのだ。
「くそっ!」
彼はハンドルから手を離し、ゲイリーが取り付けた円筒形の装置のレバーを掴む。
残り四、三、二……。
「おりゃああああ!」
力一杯レバーを引く。
ゼロ!
――轟音!
閃光とともに、スレッジとミリィの乗ったエアバイクが爆発した。




