王様の椅子
十三夜 Present: You Are a king of the world.
月野ヒビキも、時々、妙なことをすることがある。--というか、シオリの影響なのか。
時々自分が分からないなぁと思いつつ、ともかくも、ヒビキはそのアイテムを例の窓からシオリの部屋へと運び込んだのだった。
「・・ぅわぁ」
何事にも反応の薄いシオリだが、この時ばかりは、目立って嬉しそうに見えた。--それでも、世間一般の『喜び』表現に比べれば乏しいか。
「どう? 運んでくるのタイヘンだったのよ」
さらり、自慢の髪をーーていうかおかっぱなのでそれほど長くはないがーー手で払いのけ、労働の過酷さをアピールしてみるヒビキ。実は、ヴァンパイアたる彼女には、百メートルを一度走るくらいの労力でしかないのだが。
「ほー」
ヒビキは、その物体の周囲を行ったり来たり、立ったりしゃがんだりして、仔細に観察・検分している。
そして、訊いた。
「・・・ねぇ、これ、何(なん)に使うの?」
「・・・はぁ??」
床に頭を殴られたような気分で、ヴァンパイア。
「何って、座るのよ。そのためのものなんだから」
へー、と言いつつ、ヒビキの運び込んだ椅子にちょこんと腰掛けるシオリ。その様子は、椅子というものを始めてみた子どものようでもある。
アンティークであるらしく、なにやら古めかしい空気を醸している。ちょうど、童話に出てくる王様の椅子のようなゴージャス感。
シオリは、なぜかその姿勢で、きょろきょろと周囲を見渡す。そして、ヒビキの顔に目を留めたり。
「・・・何?」
居心地悪そうに、ヒビキ。
「すごいね! 王さまみたいだね!?」
「・・・う、うん・・・。あげるよ。ウチではもう使わないものだし」
「ヒビキちゃんのうちって・・・」
酒屋だっけ? うなぎ屋だっけ? そんなトーンで、シオリは言葉を切った。
「・・・あー、なんか古いもの色々あるよ。ルーマニア製のアイアン・メイデンとか」
家の中には欲しくない代物だ。--中世の拷問具の一種で、フタの内側に、トゲトゲの痛そうな突起付きの、鉄のハコである。
『・・・ひいひいおじいちゃんの遺品だっていうからさー、仕方なく』
置いてあるのよ、とかつてヒビキは言っていた。
「・・・でも。本当に貰っていいの?」
遠慮がちに、シオリは訊く。上目がちに見えるのは、顔をうつむかせているからだ。ヒビキはくすりと笑った。
「山で石ころ拾って、同じことをアンタ訊く?」
「え~? えー、どうかな・・・・」
真剣に悩み始めるシオリの隣で、ヴァンパイアは言った。
「大丈夫よ。いらないものなんだから。遠慮なくもらっておきなさい」
「は、はい、うん。アリガトウ・・・」
お礼を初めて言う人のように、シオリはようやくそう言った。




