重役
ある大学に5人の集団があった。彼らは自らのことを、全員留年していることから落下人と称していた。
彼らの日常のたいていは大学ちかくの喫茶店に居座り、リーダー格のYがメンバーのSをいじり始め、残りのメンバーがそれに便乗していくといった、よくある仲良しのグループであった。
ある日、いつものように落下たちは喫茶店でぺちゃくちゃ話していた。すると、メンバーのRが、会社を作ったら面白そうだ、と冗談まじりに話題に出した。
その話題に、いつもは口数が少ないSが切り込むように入ってきた。彼はノートを取り出し、その会社の方針やら、経営の方法やらいろいろな案を口に出しながら書きなぐっていった。
いじる機会をうかがっていたYだったが、あまりにも現実的であったので、Sのいつにない饒舌さに引き込まれていった。
それからというもの、喫茶店に一角は大学生の溜まり場から会議室へと変化していったのである。
必要でありそうな知識を修得し、大学を卒業したYたちはすぐに小さいながらソフトウェア会社を設立した。落下ソフトと名付けた会社の社長の椅子にはYがすわり、Sは今まで以上に会社に情熱を注いだ。Sのだれも考えないようなアイデアから今までにない商品を世に送りだし、類を見ない速度で落下ソフトは成長していった。そして数年後には業界の王手企業までになった。しかし、Sのいじられ役というレッテルははがれておらず、Sを除いた落下人たちは何もしないような蜜を吸うだけの重役になり、Sだけは会社をまとめるような立ち位置に立たされた。
そんな厳しい環境に立たされたこともあってか、Sは不慮の事故にあい、下半身不随になってしまい、会社を辞めてしまった。残されたYたちは大企業になってから10年以上もSに任せきりであったので、会社の経営の仕方がわからなかった。Sに助言を求めようにも田舎に引っ込むといったまま便りがない状態になってしまったので経営は悪くなる一方であった。残りの落下人たちがあたふたしているうちに落下ソフトの評判は文字どおり落下していったのである。
そしてついに落下ソフトは、大手企業Nソフトに吸収されることになった。
YたちはNソフト社長のNに招かれて、その会社の会議室に入った。
「はじめまして、Y氏。Nソフト社長を務めさせていただいておりますNと申します」
「落下ソフト社長のYです。貴方のような方にわが社を使っていただけるとは、まことに光栄でございます」
「いえいえ。まったくの礼儀知らずでございます。本来ならば会長を参上させるべきでありましたが、なんせ足が悪いもので…」
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