出たり入ったり
「なあ、ミヨ。馬鹿なことを聞くかも知れないけど……」
「うん、お兄ちゃん」
「クレアたんは、どこに行った?」
ゲームを起動した途端、クレアたんがどこかに消えた。
僕はクレアたんがどんなゲームから飛び出してきたのかを教えようと、パソコンの前に座って『レイド・オン・サタン』を起動し、セーブデータをロードした直後――――気づくと隣で見守っていたクレアたんが消えたのである。
僕とミヨは辺りをぐるぐると見回すが、どこにもクレアたんの姿は無く、ごく普通の僕の部屋であるだけだった。
「ゲームの中に戻っちゃったんじゃない? それかもう夢だよ、私達は夢を見てたんだよ」
「いや、そんなわけあるはずないよ。だってこの顔の痛みがすごくリアルなんだ。さっきクレアたんに殴られたという事実が、本物である証拠だよ」
「悲しい現実の見据え方だね……」
僕にはしっかりとクレアたんにぶん殴られた記憶と痛みがある。転んで打った訳でもないし、電柱に顔をぶつけたとかいうオチでもない。
一体、クレアたんはどこに消えてしまったのか。僕とミヨは顔を見合わせる。
そして二人してパソコンの画面に目を吸い寄せる。
画面の中には3Dで表示されたクレアたんが居た。広大な野原に丘がぽつぽつと点在するフィールド。その中にクレアたんは立っている。
周りには少数のモンスターがうろついていた。主にスライムのような軟体性の敵や小型の鳥の敵。
要するにワールドマップという奴だ。
「それに、僕とミヨが同時に夢だか幻覚だかを見るって、ありえなくね?」
「まあそれはそうだね」
謎は深まるばかりだった。とりあえず僕とミヨは部屋の中を捜索することにした。
押し入れのフスマを開けて中を覗いたりしてみるが、やっぱりクレアたんの姿はない。
「ゴミ箱の中にもいないよー、お兄ちゃん」
「お前探す気無いだろ!?」
妹のやる気がゼロだった。縦二十センチ程度のゴミ箱にクレアたんが入るものか。
僕は思案する。一体、彼女は何処へ。消えたのは、ゲームを始めてロードをした時辺り。現れたのは、ゲームを終えたとき。
そこから導き出される答えは――――
「まさか」
僕はもう一度パソコンの前に座り、ゲームのコントローラーを手に取った。
適当にその場でセーブをして保存し、ゲーム自体を終了させる。
そして僕とミヨは部屋の中をぐるりと見渡す。
『あ』
僕とミヨは二人して間の抜けた声を上げていた。
見てみると部屋の真ん中にちょこんと、正座して座っているクレアたんがいた。
目をぱちぱち開閉しながら、きょとんと佇んでいる。現状に認識が追いついていない、という様子だった。
クレアたんが、クレアたんが、戻ってきた。
「く、クレアたぁぁぁぁん!」
「せいっ」
「オウフッ!」
クレアたんは真顔で正拳突きを繰り出し、僕のボディーへとめりこんだ。
飛びかかった僕はその場で膝を付き、お腹の激痛に身を悶えながらその場に沈み込んだ。
大変痛い。けれどもクレアたんが戻ってきたという事実の嬉しさの方が勝っていた。
「あ、あれ? クレアさん、戻ってきたの?」
「…………そうみたい」
彼女曰く、元の世界(RPGの中)に戻って安心し、さぁ冒険の続きをするぞというところで気づくとこっちに来ていたらしい。
やっぱりそうだった。要するにクレアたんはゲームをやめると、こっちに来る。ゲームを始めると、消える。
つまりゲームをプレイしている間は向こうで生きていることになる、ということなのだろう。
「要するに、あたしってタイゾーの掌の上……?」
「そういうことになるね」
クレアたんはその事実を知ると、頭を抱えて唸りだした。
感動しているんだろう。これからは僕の意志でクレアたんを召還したり出来るわけで、いつでも会えるということ。
「僕は今最高に嬉しい気分だよ!」
「あたしは最高に泣きたい気分よ!」
僕の夢は広がりまくっていた。
「あ、クレアたんのセーブデータをいっぱい作ったら、ハーレム状態に出来ないかな……」
「ならないと思うよ、お兄ちゃん……」