妹、絡む
「じー……」
「じー……」
「……あの、あんたたち何やってるわけ?」
僕とミヨは扉の縁からそれぞれちょこんと顔を出し、クレアたんを舐めるように見つめていた。
「その子は?」
「あ、ええと。私、お兄ちゃんの妹で……牧場御代って言います。よろしくお願いします」
誰なのかと尋ねるクレアたん。それに対しミヨはいたく丁寧に切り返していた。
その礼儀正しい姿勢に感銘を受けたのか、クレアたんはニッコリと笑いながら応対する。
あれ、なんか僕の時と大分、対応に違いが見られるような気がするんだけど。
「なんでも、ゲームの世界からやってきたそうですね?」
「ええと……そうなるのかな。信じたくはないけれど……」
ミヨが質問をする。溜息を吐きながらも、クレアたんは現状を受け止めている模様だった。
クレアたんの話によると、冒険の最中に気づいたらここに来ていたらしい。
その最中というのが、僕が先ほどまでゲームをプレイしていた部分と同じであったため、どうやらゲームの中から抜け出てきたのは間違いないようである。
「やっぱり、僕の愛が起こした奇跡に違いないね!」
「ねぇ、ミヨちゃん。あなたのお兄ちゃんていつもこうなの?」
「はい。クレアさんにぞっこんの、現実と妄想の区別がつかない変態野郎です」
高らかに喋る僕。なんだか妹とクレアたんから冷たい目線が飛んでいるような気がするけれども、気にしない。
「でも、お兄ちゃんがこうなっちゃったのにも訳があって……。お兄ちゃんは前、女の子に酷い振られ方したんです。その頃のお兄ちゃんはすごく病んでて……どうしたらいいんだろうと思っていた私は、誕生日にゲームソフトをプレゼントしたんですけど。そしたらそのゲームに出てくる一人の女の子――――つまり、クレアさんに大はまりしちゃって。それからです、お兄ちゃんが現実の女の子を見なくなったのは」
淡々と語る妹にクレアたんはなるほどと相槌を打っていた。
ああ、そういえばそんなこともあったな。しかし僕は今、クレアたんというパラダイスを手に入れているから無問題だ。
「――ッ、そ、そうだ! よく考えたらクレアさんが全部悪いんだ! クレアさんなんてキャラがいるせいでお兄ちゃんは二次元の女の子を愛する体質に……許さないよ!」
「え。ちょ、ちょっと待ちなさいよ! それは逆恨みって奴でしょうよ!? 私に悪いところ何も無いじゃない!」
「クレアさんが魅力的なのが悪いんだよ!」
「あたしにどうしろってのよ!?」
「お、おいおい。二人ともその、落ち着いて……」
なんか二人が険悪なムードになっていた。さっきまですごい和やかな雰囲気だったのに。
「あんまりふざけたこと言ってると、女の子であろうと容赦しないわよ?」
クレアたんが物凄い形相で拳の骨をぼきぼきと鳴らしていた。
その様子にミヨは一瞬だけ身をこわばらせるも、ふっと得意な顔でクレアたんを見据えた。
「ふっふん、いいのかな?」
「な、何がよ」
「もし、ここで私が大声を出してみたりしたら、どうなるかな? 人がすっ飛んでくるよ。そしてクレアさんはこの世の人間じゃない、謎の、未知の人間だよ? そんな人がおおっぴらに暴れたりしたら、どうなるかなぁ。クレアさんはこの世界じゃ戸籍も何もないわけだから、保証も何も無いし、奇異の目に晒されるよ。そして挙げ句の果てには学会の研究所へ……ふふふ」
「う、うぅぅ……」
お、おお。なんか腕力では圧倒的に負けてるはずの我が妹が押しているぞ。
「どうしろってのよ……。あたしには魔王を倒すっていう使命があるんだから、あなたたちには構ってられないの。早くゲームの中とやらに戻してよ」
「そうだよ、お兄ちゃん。早く送り返そうよ。お兄ちゃんの衛生上も良くないよ」
ミヨとクレアたんの意見が一致していた。どうやら、クレアたんを早急に戻さないといけないみたいである。舞い上がっていた僕の心は見事に打ち砕かれた。
いや、でもせっかく来てくれたのだし、ううむ。
「同居って形は……ダメ?」
「ダメ」
ミヨとクレアたんの声がシンクロした。僕の意見はまるで通りませんでした。