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余韻もなにもないエピローグ


 こんばんは、ミヨです。

 牧場泰三の妹です。


 今日、私は信じられない光景を目の前にしています。

 友達と遊んで帰るのが遅くなった私は部屋につくと、お兄ちゃんの部屋が騒がしいということに気がつきました。

 行ってみると、お兄ちゃんが泣いているのです。抱き付きながら。

 その抱き付いている対象というのが――


「うあああっ、クレアたん、戻ってきて良かったよぉぉ」

「離しなさいって言ってるでしょうが! 恥ずかしい!」


 号泣しているお兄ちゃんが赤面しているクレアさんの腰に手を回してすり寄っているというなんとも形容しがたい光景でした。

 私は信じられずに目を丸くするばかりでした。

 クレアさんが、戻ってきた。


「ミヨちゃん、久しぶり」

「お、ミヨ。帰ってきたか!」

「え、えっと、どういうこと!?」


 私が帰ってきたことに気づいて二人の動きが止まる。

 どうして、クレアさんがまたここに――私は夢でも見ているのかと思った。


「実はな、修正パッチが出たのさ!」


 お兄ちゃんが歓喜の声を上げる。

 なんでも、クレアさんのゲームを作った会社がクレアさんのエンディングをハッピーエンドに修正するプログラムを無料配布したらしい。

 それを当ててプレイした結果、クレアさんが戻ってきた……簡単に言うと、そういうことだった。


「はぁ、制作会社に『クレアたんが死なないパッチ出せ』って送り続けたかいがあったよ」

「お兄ちゃんそんなことしてたの!?」


 お兄ちゃんは本当に変な方向に全力全開だった。

 でも……こんな簡単に運命が変わってしまうのかと、私は煮え切らない思いだった。

 作り手も、考えて作らないとね。

 いや、でもゲームキャラが出てくるなんて予想するはずもないか……。


「あ、あの、初めまして」

「あ、初めまして」


 クレアさんの後ろからひょこっと顔を出した子がいた。クレアさんと同じ髪の色で小学生高学年ぐらいかなぁという見た目の優しそうな子。

 何度か話に聞いたことのある弟さんだとすぐに解った。


「おお! 僕の弟!」

「え。ええっ!?」

「誰があんたの弟なのよ!」


 クレアさんの弟を見てお兄ちゃんはまた喜ぶ。

 そんな姿に弟さんは若干引いていた。ごめんなさい、うちの兄が。


「あの、ありがとうございました。僕達を助けて頂いて」


 クレアさんの弟さん、リック君がお辞儀をした。

 今更ながら、ゲームの中の人に感謝されるって変な気分だね。

 というか、私達はほとんど助けになったかどうか……という感じだけど。 


「今回ばかりはお礼を言っておくわ。ありがとね、タイゾー。ミヨちゃんも」


 クレアさんが満面の笑みを浮かべる。

 どうやら一度魔王にやられたことも記憶しているらしい。

 私自身は特に頑張ったわけじゃないのだけど、クレアさんの喜ぶ姿を見ているととても誇らしげな気分になった。


 が、クレアさんと弟さんの姿が突如消える。

 跡形もなく一瞬の内に姿が見えなくなった。あのゲームを始めたときのように。


「あ、あれ? クレアたんはどこに」


 いきなりの消失に戸惑うお兄ちゃん。


「……帰っちゃったんじゃない?」


 思いつきを告げる私。


「よく考えたら、クリアしたんだから、どっちにしろもうクレアさん戻って来ないんじゃぁ――」

「何それ!?」


 私の言葉を聞いて、お兄ちゃんが床でのたうち回る。

 それを見ながら私は苦笑していたけれど、唐突にお兄ちゃんが何か思いついたように立ち上がる。


「そうだ、今度は僕が向こうに行く方法を探そう!」

「え――」

「だってクレアたんがこっちの世界に来られたってことは、僕自身も二次元の世界に行く方法があるかも知れないじゃないか! 僕はその方法を追い求め続ける!」

「あの、就職活動は……?」

「そんなもの気にしないで前向きに過ごすよ!」

「それ思いっきり後ろ向きじゃない!?」

「ミヨ、悪いけどお前は次のお兄ちゃんを捜してくれ」

「お兄ちゃんて見つける物だったの!?」


 謎の情熱に燃えるお兄ちゃんを前に『ああ、うちのお兄ちゃんは一生このままなんだろうな』と思う私だった。

 馬鹿は死ぬまで治らないってことだね。


 でも、どうしてクレアさんはこっちの世界に来るようになったのかなぁ。

 もしかして未来のお兄ちゃんが開発した二次元と三次元を繋ぐ技術を過去の自分に与えたとか――

 そんなはずないか。


 まあ、一つ言えるのは。

 お兄ちゃんは、魔王以上に狂気の溢れる存在だったってことかな。

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