Aの街(1)
「したい」
僕はクレアたんをコントローラーで操作しながら、何気なく呟いた。
「クレアたんと、したい」
「お兄ちゃん、そういう限りなくアウトな発言は慎もうね」
椅子に座ってレイド・オン・サタンをプレイしていた僕に、ミヨはジト目で対応する。
「何を言っているんだよミヨ。僕が言いたいのは、『クレアたんと(心温まるような楽しいことが)、したい』ってことだよ」
「紛らわしいよ!」
「え、なにと?」
「え……それは……べ、別になんだって良いよ!」
何だか知らないけれども、妹が顔中を真っ赤にしていた。なんか変なこと言ったか、僕。
「だってほら、クレアたんとお出かけとかしたいじゃないか」
「その気持ちはわかるけど、危ないよ?」
ミヨが心配気な顔で言及する。確かに、ゲームの中から飛び出したなんて女の子が街を歩いていて、突っ込まれたりしたら厄介である。
ただでさえクレアたんは目立ちそうであるし。外でトラブルが起きたりするとまずい。
「……良いことを思いついた!」
僕は立ち上がる。そうだ、クレアたんと外をエンジョイする方法……その方法を考えていた僕は、一つの妙案に行き渡る。
僕は身を翻してミヨを見つめ、思いを口にすることにした。
「ミヨ、お前――最初にクレアたんを見た時、自分が何て言ったか……覚えているか?」
僕の言葉に不意を突かれて「えっ?」と驚くミヨは思考を働かせてしばしの間悩む。すると答えが解ったのか、掌に握り拳をぽんと置き、閃いたような顔をした。
「え、えっと。デリ○ル?」
「そっちじゃねぇよ!」
正解! と言おうとした僕は勢い余ってずっこけそうになった。我が妹ながらしっかりしているようでどこか抜けている。
「コスプレイヤー……そう言ったろう? つまりだ、初対面の人にとって、クレアたんはコスプレイヤーに見えるというわけだ」
「ああ、なるほど……。でも、それがどうかしたの?」
ミヨはまだ理解していないようだった。僕は話を続ける。
「まだ解らないか? つまり、クレアたんをコスプレイヤーがいても不思議じゃないところに連れて行けば……」
「あ――」
ミヨもようやく僕の思惑に気づいた模様だった。
そう、木の葉を隠すなら森の中、ってね。コスプレイヤーを隠すなら……そう、アキバだ! あそこならばクレアたんを連れて行ってもおかしくないはずだ! 我ながらなんという奇策! 自分の有能ぶりに、思わず涙すら出てくるってものだ。
クレアたんと外出するという手筈は整ったわけである。
「えー…………それって、大丈夫なのかなぁ」
「大丈夫だよ。お兄ちゃんの案だぞ?」
「うん、だから心配なんだけどね」
ミヨは『またこの馬鹿兄貴は……』みたいな顔をしていた。くそう。
「服は……そのままでいいの?」
「そのままじゃなきゃ、クレアたんがコスプレイヤーを装うことが出来ないじゃないか」
「まあ、そうだねぇ」
ゲームの世界の住人を、この世に連れ出す。考えてみると僕もちょっと不安になってしまった。クレアたん、人殺したりしないだろうか。
いや、その点に関しては大丈夫か。クレアたん、手加減するの上手いし。現に僕が死んでいないのがその証拠である。クレアたんが本気だしたら僕は恐らく塵と化すであろう、うん。
かくして、クレアたんと外に遊びに行こう作戦は決行された。