『おばあさんと狐と速記文字』
武蔵国の川越というところは、昔は大層寂しいところでした。狐が出て、農作物を荒らしたり、悪さをするなど、当たり前のことでした。
あるおばあさんが、毎日、機織りをしていました。この日も、夜遅くまで、とってんからりとってんからり、と機を織っておりますと、このおばあさんの家の戸を、とってんからりとってんからり、とたたく者があるのです。おばあさんは、初めは、自分の機織りの音が、どこかにこだましたのかと思ったのですが、自分が機を織っていないのに、戸の音が聞こえるので、これはこだまではないとわかり、戸に近寄って様子をうかがっていると、とってんからり、が始まりましたので、おばあさんがいきなり戸を開けますと、もんどり打って狐が転がり込んできました。どうやら、戸の外から、狐が、しっぽを使って、おばあさんの機織り機に合わせて拍子を刻んでいたようです。
おばあさんは、狐を正座させて、どういうつもりなのかを問いただしましたが、聞いてみると、さして悪いことをたくらんでいたわけでもないことがわかりましたので、隠れて何かをすると、人を驚かせることになるので、今度からは堂々と来なさい、と言い聞かせたところ、五日に一度くらいの頻度で訪ねてくるようになり、一緒にいなり寿司をつくって食べたり、狐が鳴くたびに、おばあさんが速記文字の二音文字コンを書いたり、そこそこ仲よしになったのでした。
教訓:今ふうに言えばセッションというやつである。




