迷子
源之助は死んだ。
まだ十歳なのに、攫われて暴行を受けて殺された。
恨みによる犯行ではない。
突発的な殺人だ。
事実、犯人は口にした。
「誰でもよかった」
犯人の首は刎ねられたが源之助は戻ってこない。
おっかさんは泣いた。
泣き続けた。
「痛かったね。辛かったね」
源之助の頭は強く凹んでいた。
犯人が思い切り棒で殴ったからだ。
「なんでこの子がこんな目に」
誰もがそう思い、泣いた。
*
源之助が死んでから数日後。
独りの迷子が現れた。
「家に帰りたい」
そう言って泣いている子供はどこからどう見ても源之助だ。
誰かがその子供に名前を問うたが、その子は泣きながら答えた。
「名前も覚えていない」
不幸なことにその迷子は源之助の両親に会う前に寺の坊さんに見つかった。
坊さんは迷子から優しくお話を聞きながら、その正体をじっくりと探って答えに辿り着く。
「この子の頭にも凹みがある」
つまり、迷子は間違いなく源之助だったのだ。
「死ぬ前に記憶を全て忘れたのだろう」
故に成仏も出来ずこうして迷子となり現れたのだと。
人が死ねば大切な者へ挨拶をしてあの世へと行くのが定め。
しかし、源之助は大切な者が分からない。
「さて、どうしたものか」
坊さんは悩んだ。
早く真実を打ち明ければ良かったのに悩んでしまった。
生きている者に、死んだと告げるのがあまりにも難しい。
まして、十歳の子供に。
そんな覚悟の無さ故に不幸は重なった。
「迷子が居ると聞きました」
源之助のおっかさんが現れたのだ。
どこから漏れ出たのか状況のほとんどを知ったままに。
「引き取ります。記憶が戻るまで」
泣きながらそう言うおっかさんに坊さんは何も言えなかった。
言えようはずもなかった。
*
「おっかさんに会いたい」
記憶をなくした幽霊は常日頃からそう口にする。
おっかさんは血が繋がっていないふりをしながら答える。
「その内、記憶も戻るでしょう。それまではここで暮らしなさい」
「記憶はいつ戻る。早く家に帰りたい」
「気長に待つしかないでしょう?」
源之助は迷子であり続けたし、おっかさんは心を痛め続けた。
幸せに暮らしたと言えぬのが、現実の世知辛さだ。
おっかさんの心の整理は五十の日にちを数える頃にようやく終わった。
「嘘をついていてごめんなさい」
おっかさんはそう言ってようやく真実を口にした。
この時、源之助が何かしらを口にしたが。
その言葉の内容までは残っていない。




