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親に捨てられた俺の居場所は、空手道場だった

作者: コリキ2号
掲載日:2026/03/09

 俺は、親に捨てられた。

 そう言うと非常に大げさに聞こえるかもしれない。

 でも、俺にとってはそれが一番しっくりくる言葉だった。

 母親は、男に夢中になって家を出た。

 東京に行ったらしいと、あとで祖母から聞いた。

 父親は家にいた。

 けれど、父親としてそこにいたわけじゃない。

 朝からパチンコ屋に行って、夜に帰ってくる。

 それだけの人だった。

 俺が何をしているか、学校で何があったか、

 そんなことを聞かれた記憶は一切なかった。

 気づけば、俺は祖父母の家で暮らしていた。

 祖父は無口な人だった。不器用だけど勉強も教えてくれた。

 祖母はひたすらに優しかった。

 ご飯もあるし、寝る場所もある。

 だから不幸だと言うのは、たぶん違う。

 違うんだ。...でも、心のどこかにずっとぽっかり穴が空いている感じがあった。

 家族というものが、よく分からなかった。

 友達はよく、父親にネズミーランドへ連れて行ってもらったとか、海外旅行に行ったとか、誕生日パーティーを開いてもらったとか、そんな話をしていた。

 みんな当たり前みたいに笑って話すけど、俺にはそれがどういうものなのか、正直よく分からなかった。

 まるでおとぎ話の中の出来事みたいで、どこか現実じゃない話を聞いている気分だった。それと同時に己に対する嫌悪感と疎外感を感じた。

 小学生の頃、その穴はさらに深くなった。

 飼っていた犬が死んだ。

 名前はコロ。

 雑種の、小さな犬だった。

 俺が学校から帰ると、必ず尻尾を振って迎えに来た。

 それだけで、少しだけ救われる気がした。

 祖父母の家に移り住んでから暫く経った。久々に元いた家に学校から帰るとコロが動かなかった。

 犬小屋の前で横になっていた。

 最初は寝ているのかと思った。

 でも、近づくと様子がおかしかった。

 体が痩せすぎていた。

 骨が浮き出ていた。

 俺は慌てて走って、祖母を呼びにいった。

 祖母はコロを見て、静かに言った。

「……餌、もらってなかったみたいね」

 その言葉を聞いた瞬間、頭が真っ白になった。

 母親と父親が、餌をやっていなかったらしい。

 コロは、誰もいない家で、

 ───孤独に包まれながら死んだ。

 その夜、俺はほとんど眠れなかった。

 胸の奥がずっと熱かった。

 悲しいのか、怒っているのか、自分でも分からない。

 もし俺が家にいたら、コロを助けられたんじゃないか。

 そんな考えが何度も頭に浮かんだ。

 でも同時に思う。

 もし俺があの家に残っていたら、俺だってコロみたいに放っておかれて、どうなっていたか分からない。

 祖父母の家ではペットは飼えない。

 だからコロを連れてくることもできなかった。

 どう転んでも、救えなかったのかもしれない。

 そう思うと、胸の奥で何かが音を立てて壊れた気がした。

 それから俺は、グレてよく喧嘩をするようになった。

 中学に入ってからは特にひどかった。

 ちょっとしたことで怒って、

 気づいたら殴っていた。

 自分でも止められなかった。

 恵まれた奴らがそれをさも当たり前かの様に享受し、果てや文句を垂れる。吐き気がしたんだ。

 だから殴ったんだ。

 そんな事を続けたある日、担任に呼び出された。

「このままだと問題になるぞ」

 俺は何も言わなかった。

 別にどうなってもいいと思っていた。いつ死んでも良いやって。親に捨てられた俺の人生には意味がないってさ。

 そのとき、先生が言った。

「空手、やってみないか」

 意味が分からなかった。

「どうせ喧嘩するなら、ちゃんとした場所でやれ」

 そう言って、近くの道場を教えてくれた。

 放課後、なんとなくそこへ行った。

 古い建物だった。

 畳の匂いがした。

 白い道着の人たちが並んでいた。

 前に立っていた男が俺を見た。

 道場の先生だった。

「お前が新しく来た子か」

 俺は黙ってうなずいた。

 先生はしばらく俺を見てから言った。

「怒ってるな。世の中に」

 図星だった。

 何も言えなかった。

 先生は続けた。

「怒りがあるなら、それを捨てる必要はない」

 意外な言葉だった。

「ただし、使い方は覚えろ」

 そう言って、サンドバッグを指さした。

「殴ってみろ」

 俺は拳を振り下ろした。

 ドン、と重い音がした。

 拳が痛かった。

 でも、不思議だった。

 胸の奥に溜まっていたものが、

 少しだけ外に出た気がした。

 それから俺は、道場に通うようになった。

 怒りが消えたわけじゃない。

 親のことも、コロのことも忘れていない。

 でも、前より少しだけ分かったことがある。

 人には、居場所が必要なんだと思う。

 家じゃなくてもいい。

 学校じゃなくてもいい。

 ただ、自分が立っていられる場所。

 俺にとってそれは、畳の上だった。

 空手の道場が、

 初めて俺の居場所になった。

 そして今でも、思うことがある。

 もしコロが生きていたら、

 俺が道場から帰るたびに、きっと尻尾を振って迎えてくれただろう。

 その姿を、もう見ることはできない。

 だから俺は、今日も拳を握る。

 もう二度と、何も守れなかった自分には戻らないために。

ここまで読んでいただき、ありがとうございます。


この物語は一応はフィクションとして書いていますが、実体験をもとにしています。子供の頃、自分には「普通の家族」というものがよく分かりませんでした。


友達が家族の話を楽しそうにするのを聞いても、どこか遠いおとぎの国の話のように感じていました。


この短編は、そんな過去の感情と「居場所」というテーマを書きたくて作りました。

誰にでも、立っていられる場所が一つでもあれば人は前に進めるんじゃないか、そんな思いを込めています。

場所は、どんな場所でも良いと思います。ネットでも現実でも。


もし少しでも何か感じてもらえたなら嬉しいです。


反応があれば、この物語を連載として続きを書くかもしれません。そのときはまた読んでいただけると嬉しいです。


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