第7話:王子、挑発を受けて立つ
佐藤さんの活躍によって、
部署に明るい兆しが見え始めたのも束の間。
本社の経営戦略室から、一人の男が送り込まれてきた。
「今日から経営合理化アドバイザーとして着任する、
九条です。以後、お見知り置きを」
整った顔立ちに、隙のない三ピースのスーツ。
一太郎と同じ二十代後半でありながら、
九条の纏う空気は、冬の夜の風のように冷たかった。
彼は着任早々、佐藤さんが役員に絶賛された資料を
モニターに映し出した。
「……なるほど。佐藤さん、この分析は素晴らしい。
おかげで『どの業務』が不要で、『どの人間』が足手まといか、
明確なスコアが出せました。
来月までに、このスコアに基づき、部署の三割のリストラ案を
作成してください」
事務所の空気が凍りついた。
佐藤さんの手が、カタカタと震える。
「……リ、リストラ? 僕は、みんなが仕事をしやすいようにと……」
「仕事をしやすくする? 違いますよ、佐藤さん。
IT化の真の目的は、属人的なコストを排除することだ。
感情はデータにノイズをもたらすだけです」
九条の冷徹な言葉に、
権藤課長ですら「そ、それは少し急すぎるんじゃ……」と尻込みする。
九条は興味なさげに一太郎を一瞥した。
「羽柴一太郎くん。君がこの資料の『裏の設計者』だね。
君ほどのスキルがあれば、もっと効率的に人間を削ぎ落とせるはずだ。
どうだ、僕の側に来ないか? 」
静寂の中、椅子を引く音が響いた。
一太郎がゆっくりと立ち上がる。
その瞳には、領地を荒らす盗賊を睨みつけた時と同じ、
鋭い光が宿っていた。
「……九条殿。あなたの仰る『効率』という言葉、
私のいた場所では別の呼び方がありました」
「ほう。何と言いました?」
「――**『暴政』**です」
一太郎は一歩、九条の前に進み出た。
「数値を整え、理を正すのは、
民が安心して暮らすための土壌を作るため。
決して、民を切り捨てるための刃を研ぐためではない。
あなたの術式には、救うべき『顔』が見えていないようだ」
九条はくすりと笑った。
「……面白い。王子様のような理想論ですね。
ですが、ビジネスという戦場では、数字が唯一の正義だ。
……いいでしょう。ならば一ヶ月後の役員会議で、
どちらのプランがアルファ不動産にとって有益か、はっきりさせよう。
……いいですね?」
「望むところだ。……九条殿、あなたの冷たい『鉄の城』
私の『人の通う数式』で打ち砕いて差し上げよう」
一太郎と九条。
現代の魔法を操る二人の若き天才が、ついに火花を散らした。
その日の夜。
松代さん宅のキッチンで、一太郎は一心不乱に包丁を握っていた。
「……一太郎、野菜がみじん切りになりすぎてるわよ。
九条が出てきたわね。あの子はね、私の知り合いの息子なんだけど
……ちょっとプライドが高すぎるのよね。」
「松代殿。私にお任せを。
佐藤殿の涙を見てしまった以上、退く道はないのです」
一太郎の二十代の熱き血が、静かに沸騰し始めていた。
ごらん頂き、ありがとうございますm(_ _)m
本日、第7話まで投稿します。
よろしくお願いします☆
明日は、8話と9話を連続で投稿していきます。
よろしかったらブクマをポチッと
して頂けると嬉しいです。(*^-^*)




