第5話:王子、肉じゃがで癒される
その日の夜。
アルファ不動産を「定時」で後にした一太郎は、
松代さんの家へと帰還した。
玄関を入ると、鼻をくすぐるのは高級なアロマ……ではなく、
どこか懐かしい「肉じゃが」の匂いだった。
「あら、おかえり一太郎。
今日は早かったじゃない。あの課長、大人しかった?」
「……ふむ。松代殿、お陰様で。
権藤殿は私の差し出した『分析結果』という名の術式に、
少々困惑されていたようですが」
一太郎は松代さんの前では、穏やかな顔を見せる。
ダイニングテーブルに並ぶのは、松代さんが作った「家庭料理」。
一太郎は二十代の若者らしい食欲で、それを美味しそうに口に運んだ。
「美味しいですな……。
前の世界では、常に毒味役が先に口にする冷めた食事ばかりでした。
温かいものを温かいうちに食べられる……
これこそが、この国の真の魔法かもしれません」
「美味しいかい?」
松代は目を細めて一太郎を見つめた。
彼女はこの若き王子の「高潔すぎる精神」が、
現代日本の荒波で折れてしまわないかを、誰よりも心配していた。
「松代殿、私は王子でしたが、民を救う前にこの世界に来てしまった。
だから、せめて目の前のデスクで苦しむ佐藤殿や、
希望を失った同僚たちに、定時に帰って家族とこの肉じゃがを囲む
『時間』を返してあげたい……。それが、私の新しい騎士道なのです」
松代は黙って一太郎の頭を撫でた。
「……あんた、本当に馬鹿だね。
でも、そんな馬鹿な王子様、嫌いじゃないよ」
翌日。
出社した一太郎は、佐藤さんのデスクに一枚の小さな付箋を貼った。
そこには、一太郎が夜な夜な構築した
「佐藤さん専用・全自動ショートカット集」の使い方が記されていた。
「……羽柴くん、これ……!」
「佐藤殿。昨夜は、お孫さんの誕生日だったと伺いました。
今日は、これで早くお帰りください。
あとの雑務は、私の『関数』が処理しておきますから」
佐藤さんの目に、うっすらと涙が浮かぶ。
一太郎の戦いは、単なる「嫌がらせへの反撃」から、
「仲間の笑顔を取り戻すための革命」へと、静かに、
しかし確実に形を変えていた。
その頃、自分のデスクで鼻をほじっていた権藤課長のもとに、
一本の電話が入る。
「……何!? 本社から役員が視察に来るだと!?
それも、IT化の進捗を確認しに……!?」
物語は、さらなる波乱へと向かっていく。
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